先哲者の漢詩>35>高野竹隠


高野竹隠(文久2・9・29−大正10・4・10)
名古屋の人。名は清雄。別号を修簫仙侶。白馬山人。
夙齢、佐藤牧山に詩を学ぶ。牧山に従って上京。経学を修めるかたわら永坂周ニの紹介で森春涛の門に出入しその豊かな詩才に一門の人々を驚倒させた。後、伊勢・神宮皇学館の教授。大正六年以降は京都に起臥した。中央詩壇への執着が無く詩集も遺命して刊せず。槐南は終生、竹隠を師友として遇した。明治末期から大正初期にかけての巨然たる大家であったと言われている。
         参考文献:明治漢詩文集。漢詩書刊行会。

       秋憶  六首之一
感物良無窮.。   物に感ずること 良(まこと)に窮まり無し
触慮如有赴。   慮に触るること 赴(ふ)有るが如し
勁草値飆風。   勁草 飆風に値い
摧蘭傷重露。   蘭を摧き 重露を傷(そこな)う
未知往日非。   未だ往日の非を知らざるに
旋悲來者忤。   旋(たちま)ち悲しむ來者の忤(そむ)くを
梏亡無幾許。   梏亡 幾許(いくばく)も無く  
精役神頻寤。   精役として 神頻に寤す
一鐘発虚響。   一鐘 虚響を発し
百端帰黙数。   百端 黙数に帰す
横涕霑我衣。   横涕 我が衣を霑す
冷逼疑乍雨。   冷逼りて 乍ち雨かと疑う
    
☆梏亡(こくぼう)利慾が手かせとなり、善心を亡ぼす。


         寄懐国分青崖
南望匈奴涕涙斑。   南のかた匈奴を望めば涕涙斑たり
漢家聞説棄陰山。   漢家 聞く説(ならく) 陰山を棄つと
憑君落日長煙裏。   君に憑って 落日 長煙の裏
収拾沙場白骨還。   沙場の白骨を収拾し還れよ

         瓊山図
樹頭無葉石生雲。   樹頭 葉無く 石 雲を生ず
山気高秋迥不群。   山気 高秋 迥かに群せず
略向胸中拓丘壑。   略(ほぼ)胸中に向って 丘壑を拓くに 
書香道味要平分。   書香 道味 平分を要す

          夏山蒼翆
長沙遷客過瀟湘。   長沙の遷客 瀟湘を過ぎる
雲接蒼梧竹日荒。   雲は蒼梧に接して 竹日荒れる
天辺魑魅君知否。   天辺の魑魅 君知るや否や
画出惟看水色涼。   画き出し 惟だ看る 水色の涼を

         江雲帆影
海岳風流豪谷伝。   海岳の風流 豪谷に伝う
銜杯飲墨噴雲煙。   杯を銜み 墨を飲んで 雲煙を噴く
今君紛本何従得。   今君 紛本 何に従いてしか得し
日対白華山酔眠。   日に白華山に対して 酔眠す

         題柚木玉邨山水画冊
春水誰家天上船。   春水 誰が家の天上の船か
坐随雲気到楼前。   坐(そぞ)に雲気に随い 楼前に到る
老夫欲問淮南米。   老夫 問はんと欲す 淮南の米
乗興東游一酔眠。   興に乗じ 東游 一酔眠る
                      ☆淮南米(宋の米フツ・字は元章)


         東郭属題槐南博士南都冶春絶句後
諸天花雨夕陽晴。   諸天の花雨 夕陽に晴る
若草山辺拾翆行。   若草山辺 翆を拾うて行く
青丹従昔南都好。   青丹 昔より 南都好し
不待荘厳金碧成。   荘厳の金碧を待って成らず

         東郭属題槐南博士南都冶春絶句後(二
ニ月堂辺去歳過。   ニ月堂辺 去歳 過ぎしに
柳枝吹絮満煙波。   柳枝 絮を吹いて煙波満つ
尋君ニ十年前事。   君に二十年前の事を尋ねれば
老大春風恨独多。   老大 春風 恨 独り多し



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