信夫　恕軒 信夫恕軒。名は粲。字をう文則。恕軒と号す。鳥取の出身。始め法華僧なるも還俗して、大槻磐渓、吉野金陵、海保漁村に学び文章を以て一家と成す。詩集に『恕軒文鈔』がある。 　　　自　遣　　（二首之一） 擇友不歎知己少。　　　　　友を擇んでは　歎ぜず　知己の少きを 息交偏喜読書多.。　　　　　交を息めては　偏へに喜ぶ　読書の多きえお 衡門尽日無人訪。　　　　　衡門　尽日　人の訪う無く 一任村童設雀羅。　　　　　一任す村童の　雀羅を設くるは 　　　自　遣　　（二首之二） 自憐命薄似残灰。　　　　　自ら憐む　命薄の　残灰に似たるを 熱欲生時冷已來。　　　　　熱　生ぜんと欲する時　冷　已に來る 好是草堂風雨夕。　　　　　好し是れ　草堂　風雨の夕 一盃村酒洗零台。　　　　　一盃の村酒　零台を洗う 　　　新正誌筆 手展華箋試一揮。　　　　　手に箋を展べて　試みに一揮す 従他墨瀋点新衣。　　　　　従他　墨瀋の　新衣に点ずるは 満窓初日煕春色。　　　　　満窓の　初日　煕春の色 愛此雲煙繞筆飛。　　　　　愛す此の雲煙　筆を繞って飛ぶを 　　　新居雑詠　　（四首之一） 新営昌黎屋。　　　　新たに営む　昌黎の屋 辛苦擲銭嚢。　　　　辛苦　銭嚢を擲うつ 花竹巧照応。　　　　花竹　巧みに照応し 苔石更倒装。　　　　苔石　更に倒装す 結構何所取。　　　　結構は何の所る取ぞ 漢魏小文章。　　　　漢魏の小文章