千秋詩話  18

  字眼 ・響字 ・練字

「字眼」「響字」詩中に最も重要な一字で詩も好くもなり悪くもなる。
陶淵明の有名な詩。
    菊を東籬の下に採り  悠然として南山を見る。
この「南山を見るを望むにしたら」如何か菊を東籬の下に採り  悠然として南山を望む。では忽ち句が平凡になってしまう。「滄浪詩話」にも「蘇東坡」も「字を下して響きを貴び、語を造して圓を貴ぶ」字眼を論じている。

蘇東坡に才気煥溌の妹がいた。「詩学逢原」「東坡禅喜集」に字眼を説く
面白い話を例に挙げている。或る時、蘇東坡と黄山谷(黄庭堅)が和風細柳澹月梅花の腰へ入れる一字が生命だと、共に沈吟していたが、先ず東坡が

和風細柳   和風 細柳をかし
澹月梅花   澹月 梅花に
とした。妹が忽ち
、そんなのはまだダメですネと笑った。そこで山谷は、
和風
細柳   和風 細柳をはし
澹月
梅柳   澹月 梅花を
と作った。妹は少しは好くなりましたネと笑ってる。そこで兄の

細柳    和風 細柳を
澹月梅花    澹月 梅花を
これには さしもの両人も兜を脱いで嘆賞した。


唐僧
斎己が、早梅の詩。 
前村深雪裏   前村 深雪の裏 
昨夜数枝開   昨夜 数枝開く

を得て
鄭谷に示した。鄭谷は數枝では早梅にならない。一枝開くとせねばならぬ。」を「一」字に改めた。斎己つい に鄭谷を拝して『一字の師』となした。と言うのが「唐詩紀事」に見える。

夜航詩話にこのような話がある。宋の重臣張詠の机の上に在った彼の詩稿の中に、
独恨太平無一事。   独り恨む太平一事無く
江南閑殺老尚書    江南閑殺す老尚書


蕭楚材は、そっと恨の字を幸(とす)に改めて置いて、誰にも解らないようにして部屋を出て行った。張詠が後で氣がつき誰がやったのか早速調べてみると、楚材は言った。”公の為に身の安全を謀りいたしました。

今や公は功高く位重く、奸人は目を側立てて狙っている時です。
それに天下は統一した今日、公独り太平を恨んでよいでしょうか張詠これを聞き非常に喜び、楚材は我が「一字の師」であると感謝した。