千秋詩話 (27)                                 石九鼎の漢詩館

   錦袍    錦袍を奪う

唐代のころは、東岸(香山寺あたり)は文人、文客がよく遊び、則天武后もしばしば東山に遊んでいる。自分の容貌に似せた盧舎那佛が黄金に光るのを眺め、さぞや得意だったろう。香山寺には『錦袍を奪う』と言う逸話がある。

   隋唐嘉話・唐詩記事に(奪錦袍)
武后游龍門、命群官賦詩、先成者賞錦袍、左史東方蛟(きゅう)既賜、
坐未安、宋之問詩復成文理兼美、左右莫不称善、乃就奪袍衣之。

ある時、武后は香山寺で酒宴を開いた。
詩を作ってみよ、と従臣達に命じた。最初に出来た者に錦袍を与える、と賞品をかけた。最初に名のり出たのが、記録をつかさどる「左史」の官。東方蛟(きゅう)であった。

錦袍を賜り、意気揚揚と自席に戻り着席しようと、その時、侍従職の宋之問が詩を完成した。

武后が宋之問に朗読させたところ、二十一句からなる391字の大作。華麗な言葉がちりばめてある。一座の参加者から讃歓の声があがった。武后は東方蛟(きゅう)から錦袍を取り返し
宋之問に賜った。

       宋之問の詩

宿雨霽氛埃、流雲度城闕。河堤柳新翠、苑樹花始開。洛陽花柳此時濃、山水楼台映幾重。群公払霧朝翔鳳、天子乗春幸鑿龍。龍問近出王城外、羽従淋漓擁軒蓋。雲蹕僅臨御水橋、天衣已入香山会。山壁嶄巌断復連、清流澄K俯伊川。塔影遥遥緑波上、星龕奕奕翆微辺。層巒旧長千尋木、遠壑始飛百丈泉。綵仗霓旌廻香閣、下輦登高望河洛。東城宮闕擬昭回、南陌溝畛殊綺錯。林下天香七宝台、山中春酒萬年盃。微風一起祥花落、仙薬初鳴瑞鳥來。鳥來花落紛無已、称觴献壽煙霞裏。欹舞淹留景欲斜石阯P駐五雲車。鳥旗翼翼留芳草、龍騎駸駸映晩花。千乗萬騎鑾輿出、水静山空巌警蹕。郊外喧喧引看人、傾城南望属車塵。囂声引揚聞黄道、王気周廻入紫宸。千王定鼎三河固、宝命乗周萬物新。吾皇不事揺池楽、時雨來觀農扈春。


宗之問は則天武后が唐室の実権を掌握し張昌宗、張易之、のような色男を寵愛するのを見て不快に思う。自分は才学の力で北門学士の地位を勝ち得んとしたが、歯の疾病のために採用されなかったので「明河篇」と言う詩を賦し、その末に「明河は望む可く親しむべからず」の句を述べて暗に武后にその意をほのめかした。

武后は微笑しながら、詩意はよいが、この男、物を言い過ぎる嫌いがあると言い、抜擢しなかった。


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