詩話 (31)

“楽しみは後ろに柱,前に酒,左右に女,ふところに金”
と言う高尚な趣味は縁が遠く。言葉のクズ行き寸前の
文字を見つけるのが好きである。

天保年間に伊藤馨と言う人が「詩韻砕金幼学便覧」が
漢詩制作の参考書を出した。絶望的な程の教養の差である。

一出郷園歳再除。
慈愛消息定如何。
京城風雪無人伴。
独削寒灯夜独書。

枉解してみると,

勉強ちゅうて田舎を出てきた
ふた親いまごろ,何をしてござらっしゃるやら
みやこは吹雪いて女気なしのひとりぽっち
ちくしょうこのロウソクは寒気がする
おもろい本でも読んであったまろか
山陽という人はかなり早熟だったようである。

幕末の志士はこう詠った。
去国丁度三歳春,為御医者様姿,御国の病がなおしたい。

おくにをさってちょうど,みとせのはる。
おいしゃさまの,すがたに,なって
おくにの,すがたが,なおしたい
幼学便覧に縁が無かった人らしい。

九州の碩儒,亀井昭陽の娘の少琴が,学友に向かって
「九州第一ノ梅,今夜君のタメニ開ク」
大胆にして典雅な求愛の詩を贈った事件が起きた。

失題  亀井少琴(筑前人,元鳳之女)

扶桑第一梅。  扶桑 第一の梅
昨夜為君開。  昨夜 君が為に開く
欲識花真意。  花の真意を識らんと欲せば
三更踏月來。  三更 月を踏んで來たれ

今夜でもなく今宵でもなく”昨夜”なのであり,
昨夜から開きっぱなしで夜這いを待ちかねる奔放な
表現が当事の人に大受けに受けたのであった。
 
参考資料
「江戸漢詩」(中村真一郎,岩波書店)
 東方221の7号

    hhp://www.ccv.ne.jp/home/tohou/siwa.31htm