中国歴史紀行

       莫愁湖

南京市の水西門外大街194号に在る、莫愁湖入り口で簡介と関連書籍数冊を購入し参観する、周囲5km、面積50ha、広々とした湖である。公園内は静かで老若男女が散策、ジョギング、太極拳、鳥篭を持参して“鳥の鳴き方比べ”をしている老人たち。毎年海外からの参観者は年間百数十万人に達していると言う。

莫愁湖は六朝時代からの名勝地で、古来“金陵第一名勝”“江南第一名湖”“金陵四十八景之首”等と賞賛されてきた。園内には華巌庵、勝棋楼、郁金堂、賞荷庁、光華亭、湖心亭、児童広場など花房、曲経回廊、他に園内には楼。軒、亭、などが配置され、堤岸には垂柳、海棠が相間、遊ぶ人“此に至れば愁うる莫れ”である。

南京城中に一つの優美で悲話物語が民間伝説として残っている、“莫愁女”が伝えられる“莫愁女”は六朝斉梁時代に洛陽の貧家の娘である、幼年時に母を亡くし、父と互いに頼り合って生きていた。聡明で美しく、よく働き、文を好み、採桑、養蚕、紡績等々、何でも得意とする娘だった、隣の子供が本を読むと、彼女はそれを聞き全てを暗記していた、知っている僅かの漢字で幾首の詩文を書き咏じた。

莫愁は父から薬草で病気治療することを学び、本職に近い技術を持っていた。十五歳の時、父親は采薬の途中、不幸にして懸崖から落下し亡くなってしまった。莫愁は哭き明け暮れ肝腸寸断の思いだった、家境が貧寒な為、止むを得ず、身を売って父の葬らいをする事を考えた、当時、建康の盧員外が洛陽で商売をしていた、彼は莫愁の素朴で美しいのを見て、莫愁を助け、家の料理をさせ、後々は妾妻にしょうと考え、彼女を建康に連れて来た。此れより莫愁は盧家に嫁ぎ員外の[女 息] 婦と成った。

莫愁は夫の恩愛を受け2年目に可愛い赤ん坊を生んだ、名を阿候と付けた。員外家の生活は裕福で幸せだったが、莫愁は何時も双眉に緊鎖していた。彼女は父親を懐かしみ生家に向った、山の上の采薬は貧乏の多いこの村人たちの病気治療に莫愁自身、慰められやっと笑容を露わした。村人達は莫愁に此処に長く住むよう懇願した、莫愁は生家と員外とを、行ったり来たりした。莫愁は特に“郁金香”の花が好きで、いつも部屋に挿していた。人々は彼女の寓を“郁金香堂”と呼んだ、その名は近隣に知られるようになった。

莫愁の夫、員外は曾つて梁朝時代、官に就いたことがあった。ある日、梁武帝が報を聞き水西門の員外家庄園の牡丹の盛開に来て、員外家の花を賞した。その牡丹花の交錯は錦が如く、目を奪うは霧の如く、驚いた武帝は“この花は誰が栽たのか?”員外は答えに詰りながら“この花は妾妻、莫愁が栽たものです”“寓意、吉祥の如く聞く名だ”早速漠愁に伝え駕籠で見にきた、梁武帝は莫愁の花のような容貌をみて、思わず神魂顛倒!暗に思った、皇家花園の花は盧家だけでなく宮内妃子さえ盧家の婦美は・・・・。宮殿に帰り武帝は寝食難安!終に一つの毒計を想い浮かべた。


       
                           


莫愁の丈夫盧公子に征兵の旨を伝え、途中盧公子を殺害した。武帝は莫愁を宮殿に入り妃になるようにの旨を伝えて来た。莫愁は此れを知り悲憤交々加わる、人面獣の心だと武帝を恨み、石と共に身を城湖に投じた。人々は彼女を深く追悼し、記念し石城湖を莫愁湖と呼ぶようになった。梁武帝は知らせを聞き自から愧て《河中之水歌》を書いた。莫愁湖に関する詩は多い。

      河中之水歌    梁武帝(蕭衍)
河中之水向東流。    河中之水 東にむかって流れる
洛陽女儿名莫愁。    洛陽の女儿 名は莫愁
莫愁十三能織綺。    莫愁 十三にして能く綺を織る
十四采桑南陌頭。    十四で桑を采る南陌の頭り
十五嫁為盧家婦。    十五にして盧家に嫁し婦と為る
十六生儿字阿候。    十六で儿を生み 字は阿候
盧家蘭室桂為梁。    盧家 蘭室 桂 梁と為る
中有郁金蘇合廂。    中に郁金あり蘇り廂に合い
頭上金釵十二行。    頭上の金釵 十二行
足下絲履五文章。    足下 絲履 五文章
珊瑚挂鏡爛生光。    珊瑚 鏡を挂げ爛光を生ずる
人生富貴何所望。    人生の富貴 何れの所に望む
恨不早嫁東家王。    東家の王に嫁すに早やからずを恨む

    無題    魯迅
雨花台辺埋断戟。    雨花台辺 断戟を埋む
莫愁湖里余微波。    莫愁湖里 微波を余す
所思美人不可見。    思う所 美人 見るべからず
帰憶江天発浩歌。    帰って江天を憶い 浩歌を発せん

莫愁湖公園に『勝棋楼』がある、2階建てで扁額が掛る清代の状元、梅啓照の書。階上の正面の壁に明代の中山王徐達の画像が掲げる。明の太祖朱元璋が徐達と将棋を指し負けて、莫愁湖を徐達に贈ったので『勝棋楼』と言うと伝える。


2004/02


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