野老
上元元年。近体詩。

野郎籬前江岸廻。     野郎 籬前 江岸廻る
柴門不正遂江開。     柴門 正しからず 江を遂て開く
漁人網集澄潭下。     漁人の網は集まる澄潭の下
賈客船随返照来。     賈客の船は返照に随って来る
長路関心悲𠝏閣。     長路関心 𠝏閣を悲しむ
片雲何意傍琴台。     片雲何意ぞ琴台に傍う
王師未報収東軍。     王師未だ報ぜず 東軍を収むるを
城闕秋生画角哀。     城闕秋生じて画角哀し

○前、 一作辺。
○賈客、詳註本作估客。
○片雲何意、 一作行雲幾處。
○意、 一作事。
○東軍、 宋本作東軍。今従詳註本。
[𠝏閣] 長安から蜀に入る道中の要塞の山。
[琴台] 前漢司馬相如の遺跡。杜甫草堂の近くにあった。
[城闕] 帝城の門。成都は南都にされていたので、長安・洛陽と共に城闕と称された。
[画角] 色模様を附けた角笛。
[梁簡文帝・詩] 林空画角悲


[詩語解]
[王師] 官軍。
[収東軍] 東軍は洛陽以東の諸郡を指す。乾元二年九月に東京及び済・汝・鄭・滑の四州皆賊に陥り上元元年六月、田神功、史思明が兵を鄭州に破るが、東京の諸郡は未だ収復されなかった。

[詩意]
自分の家の籬の辺では錦江の岸が曲がっている。だから柴の門も曲った江の形のままに折れ曲って開かれている。見れば魚を採る人々の網は澄潭の處に集まっている。流れに下って来る商人の舟も夕日の照り返しと共に泊まるべくやって来る。故郷まで道路の遠いことは気懸かりである。𠝏閣に隔たれていることは悲しいことである。
琴台の方を見ると一片の雲が之に寄り添うているように見える。官軍が東方の諸郡を収復したという知らせはまだない。唯ここの城の城闕には早くも秋が生じて軍隊の吹き鳴らす角笛の音が哀れに聞こえてくる。


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