落 日
草堂の春の夕ぐれの様子を述べる。上元二年。近体詩。

落日在簾鈎。    落日 簾鈎に在り
渓辺春事幽。    渓辺 春事幽なり
芳菲縁岸圃。    芳菲なり 岸に縁る圃
樵爨倚灘舟。    樵爨す 灘に倚る舟
啅雀争枝墜。    啅雀 枝を争うて墜ち
飛蟲満院遊。    飛蟲 院に満ちて遊ぶ
獨醪誰造汝。    獨醪 誰か汝を造れる
一酌散千愁。    一酌 千愁を散ず

○一酌, 一作酌罷。
○一酌散千愁。 千憂, 一作罷千憂。

詩語解
[簾鈎] すだれを巻き上げて止めておくかぎ。
[渓辺] 渓は浣花渓。
[春事幽] 春事とは下の四句のこと。幽は幽静。
[芳菲] 花がかんばしく匂う
[縁岸圃] 江岸に依りそうはたけ。
[樵爨]. 柴木を借りてご飯を炊く。
[倚灘舟] はやせに依っている舟。
[啅] とりの騒ぐ声のさま。
[争枝] 多くの鳥が一つの枝だに停まろうとする。
[院] おく庭。
[醪] にごりさけ
[汝] 獨醪をさす。「誰造汝」酒を始めて作ったのは[杜康]という古代の人という伝説がある。

詩意
夕日が簾の鈎に留まるころ,渓べには春の営みが静かに行われている。岸を縁取る畑では草花が好い匂いを放っている。早瀬に停泊している舟では柴を刈りとって,めしを炊いている。雀が騒ぎ一つの枝を争い,落っこちている,虫が奥深い庭いっぱい飛び回って遊んでいる。濁り酒よ!誰がお前という嬉しい存在を作ったのか知らぬが,お前を一寸吞むだけで千愁を消え失せる。
   

                      Copyright(C)1999-2011 by Kansikan AllRightsReserved 
                                       ie5.5 / homepage builder vol.4"石九鼎の漢詩舘
"