天末憶李白   49
秦州にて天涯にいる李白を憶って作る詩。乾元二年秦州にての作。

涼風起天末。    涼風 天末に起こる
君子意如何。    君子 意如何
鴻雁幾時到。    鴻雁 幾時か到らん
江湖秋水多。    江湖 秋水多し
文章憎命達。    文章 命の達するを憎む
魑魅喜人過。    魑魅 人の過ぐるを喜こぶ
応共冤魂語。    応に冤魂と共に語るなるべし
投詩贈泪羅。    詩を投じて泪羅に贈る

詩語解
[天末] 天涯という如し,李白と遠く隔てを以て,作者自己の居所,秦州をさして,天の果てという。
[君子] 徳のある人。李白を指す。
[鴻雁] 鴻は,おおとり。雁はかり。李白からの手紙を指す。
[江湖] 南方,李白の居るところを指す。
[秋水多] 秋は水量が多いので無い。水面の多種を言う。
[憎命達] 命達とは運命が窮まる事なく,通ずること。運命が順調に開けること。
[魑魅] ばけもの。
[喜人過] 鬼は人が通れば捕らえて食らう。
[応] 旧解では次の句までかける。但し,今,上句のみにかける,のが通説になっている。
[冤魂] 屈原の魂。屈原は楚の襄王に斥けられ遂に汨羅の淵に身を投げて死んだ故事から言う。
[語] 李白が話しをする。
[投詩] 作者が投ずる。
[贈] 作者が李白に送る。漢の賈諠は長沙に到り「弔屈原賦」を作り屈原を弔った。作者も李白は或いは已に死せるかと,想って此の詩を汨羅に贈る,という意味。


解釈秦州の天涯に居て李白の事を想い作った詩。乾元二年。
天の果てとも言うべき此処にも涼風が起った。君の今いるところは如何であろうか、君からの雁の便りは何時、此処え着くことか、南方江湖の地方は秋の水も多種で広いことだから、君の様に文章の勝れたものは却って順境に居ることを嫌われる、文章が人の運命の開くのを避けているかの様である。君の所に、蔓延っている悪鬼共は人が過ぎ行けば好いと喜んでいる。今頃、君は無実の罪に死んだ屈原の魂を相手に物語でもしていることであろうか、私は君を憶い詩を投げてベ泪羅の客とも言うべき君に贈



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