夜 大暦元年。秋夜の景の感慨の詩。「仇兆鰲,曰;大暦元年九月初旬,虁州の西閣に居たときの作詩哉」 露下天高秋水清。 露下り天高くして秋水清し 空山獨夜旅魂驚。 空山獨夜 旅魂驚く 疎燈自照孤帆宿。 疎燈自ら照らして 孤帆宿す 新月猶懸双杵鳴。 新月猶を懸かりて 双杵鳴る 南菊再逢人臥病。 南菊に再び逢いて 人 病に臥す 北書不至雁無情。 北書 至らず 雁 情無し 歩簷倚杖看牛斗。 歩簷 杖に倚りて 牛斗を看る 銀漢遙応接鳳城。 銀漢遙かに応に鳳城に接するなるべし ○夜, 一作秋夜客舎。 ○天高, 一作空山。 ○水, 詳註云。一作気。 ○菊, 一作國。 ○至, 一作到。 ○簷, 宋本作蟾,今従詳註本。 『楚辞,九辯』 泬寥兮天高而気清,寂寥兮收潦而水清。 『王粲,七哀詩』 獨夜不能寐。 『崔融,詩』 旅魂驚塞北。 ○歩簷, 詳註引顧注云,古者六尺曰歩,今之廊檐,大率広六尺。 [詩語解] [疎燈] 燈の光が疎らに散るをいう。 [猶懸] 新月は早く一縷べきなのに今猶を落ちずに天に懸かるをいう。 [双杵] 二つの杵。 [南菊再逢] 雲安と虁州と各一回遇うをいう。 [人臥病] 自分をいう。 [北書] 北方からの書信,故郷の便り。 [雁無情] 雁は手紙をくれるものとせられる。 [歩簷] 陽慎の説に,「歩簷」は【大招】の歩爓なり,(上林賦の李善の注には歩爓は歩廊なりとす,遊歩する廊下なり。) [牛斗] 牽牛星と南斗星。銀漢はその南端を斗傍において横たわる。 [銀漢] 天の川。 [鳳城] 長安の城。 [詩意] 露は降り天高く,秋の江水は澄んでいる。山で夜る独りでいると侘びしさが募る。水面には一個の帆掛け舟が宿し,燈火が疎らな光を自分自体に照らす。陸の方ではまだ新月が懸かって杵の音が鳴っている。私は病躯ながら二度も南方の菊の花に出会った。それにしても,北方の故郷からの便りは少しも来ない。雁もつれないもんである。歩廊の当りを杖によりながら,牛斗の星を眺めると,銀漢がずぅーとひきへている。定めし遙かに長安の丹鳳城にまで続いているのであろう。 Copyright(C)1999-2011 by Kansikan AllRightsReserved ie5.5 / homepage builder vol.4"石九鼎の漢詩舘" |