船下夔州郭宿 雨湿不得上岸別王十二判官。   太暦元年春晩。
    (船夔州に下るとき郭宿す,雨に湿いて岸に上ることを得ず,王十二判官に別る。

依沙宿舸船。     沙に依りて 舸船に宿す
石瀬月娟娟。     石瀬 月娟娟たり
風起春燈乱。     風起りて 春燈 乱れ
江鳴夜雨懸。     江鳴りて 夜雨 懸る
晨鐘雲岸濕。     晨鐘 雲岸うるをい
勝地石堂煙。     勝地 石堂けぶる
柔艫軽鴎外。     柔艫 軽鴎の外
含悽覚汝賢。     含悽 汝が賢なるを覚える

【詩語解
[郭宿] 雲安県の外郭(そとくるわ)。船で宿まる
[上岸] 上陸すること。
[王十二判官] 判官である某王。
[舸船] 舸は大きな船。
[石瀬] 石の多い,浅瀬。
[春燈] 船に吊してある燈。 []
[懸]  遠方に高くかかる。
[晨鐘] 早朝の鐘の音。
[雲岸] 雲の横たわっている江岸。
[勝地] 風景の優れた善い場所。
[石堂] 石造の堂をいう。
[煙] 雨が降れば,けぶる,意。
[柔艫]ふわりと漕ぐ柔らかい艪をいう。
[軽鴎] 軽く水に浮かぶ鴎。
[含悽] もの悲しさを胸にもつ。
[汝賢] 王判官を指す。

詩意
雲安郭外の沙浜に大船を着けて泊まった。此の場所は(せきらい)石瀬のある場所で,月の光は水の浅瀬に砕けて実に美しい景色である。所が船中で燈火が急に乱れて,消えそうになり,風がでてきて,夕立ちがやってきそうになった。
暫くすると,果たして夕立ちで,江の流れが凄まじい音を立てて,雨の声と混じってごうごうと響き,夜もすがら止まず,とうとう明け方になった。
朝,起きて見たら鐘の音は湿り気を含んで,遠くに聞こえず,石堂の勝地も薄い靄に立て込められてハッキリと見えない。此の様なことで,上陸出来ず,船は已に出仕度して,艪は鳴り,鴎はは船についてきて,送るような有様だった。
所以,王十二判官とは直接面会して別を告げることも出来ず,自分は空しく彼の賢徳を想い,悽然,心を傷めるのみでであった。


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