逃 難

湖南の危難から逃れがれ出た時の詩。大暦五月夏の作であろうか。本編は陳洪然本/文苑英華に見え,或は贋作とも言う。 

五十白頭翁。      五十 白頭の翁
南北逃世難。      南北 世難を逃れる
疎布纏枯骨。      疎布 枯骨を纏う
奔走苦不暖。      奔走 暖ならざるに苦しむ
已衰病方入。      已に衰えて病 方に入る
四海一塗炭。      四海 一に塗炭なり
乾坤萬里内。      乾坤 萬里の内
莫見容身畔。      身を容るる畔を 見る莫し
妻孥復随我。      妻孥 復た我に随う
回首共悲歎。』     首を回らせて 共に悲歎す
故国莽丘墟。      故国 丘墟に莽たり。
隣里各分散。      隣里 各分散す
帰路従此迷。      帰路 此より迷う
涕盡湘江岸。      涕は盡く湘江の岸

詩語解
[逃難] 難は湖南の乱。
[五十] 大暦五年の作であれば,作者今年五十九歳。
[疎布] 粗布,
[苦不暖] 席暖たたまらず。「孔子席不暖」の意か。座席のあたたまる暇もない。
[一塗炭] 同一に,塗炭の苦に陥る。
[容身畔] 畔とは,所。
[莽] あれたる土地
[湘江岸] いずれの場所科不明。湘水航行中の某場所成らん。

詩意]
五十(実は五十九」)の白頭の唐人,この親爺は,或いは南し或いは北して,世間の危難から逃げ延びている。粗い布を枯れた誉めに巻き付けて,あちら,こちらと奔走して座作記の暖まる暇もないのに困っている。』

老衰になったから,病気が体に入って来た。四海はどこを見ても一様に塗炭の苦しみに陥っている。天地の寛き,萬里のあいだに於いてもどこに,此のからだを容れるべきか,然る場所さえ見つからない。妻や子供も自分に就き従えているが,もろともに首を巡らして悲しみ歎く。』

故郷を見れば丘墟となって草が茂る。近所,隣の人々もそれぞれ離散してしまっている。故郷へ帰る路はこれから,益々迷う。
この湘江の岸べでは,もはや涕もかれて,尽き果てた。

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