東 方 朔 ()

前漢の人.字は曼倩,弁舌・文章に長じ,また,滑稽と奇行によって武帝に愛された.伝説によると仙術をよく した方士で西王母の もも を盗み食って長寿を保ったと言う.
東方朔は辞賦家。経学を得意とし,史伝雑説に精通していた。正直な人柄と滑稽な話しぶりが武帝に期気に入れられ,太中大夫(議論を司さどり仕切る)役に任じられた。政治に関して進言したが,彼を軽んじていた武帝は,その意見を取利上げることはなかった。そのことに不満を思い,問答形式の「答客難」を著し,この作品は後に,揚雄の『解嘲』夜る班固の『答賓戯』などに模倣された。かれんは二巻の著書をのこしたが散逸して現存しない。

      誡子詩   子を誡むる詩
 
  明者處世  莫尚於中      明者の世に處する  中に尚うるは莫し
  優哉遊哉  於道相従      優なる哉遊なる哉  道に於いて相従へ
  首陽為拙  柳下為工      首陽拙為り  柳下工為り
  飽食安歩  以仕代農      飽食 安歩は 仕を以って農に代える
  依隠翫世  詭時不逢      依隠 世を翫び に詭て逢はず
  才尽身危  好名得華      才尽くせば身危ぶく 名を好めば華を得     
  有群果生  孤貴失和      群有れば果生じ  孤貴なれば和を失う
  遺余不匱  自尽無多      遺余あるは匱しからず  自から尽すは多き無し
  聖人之道  一龍一蛇      聖人の道  一は龍一は蛇 
  形見神蔵  與物変化      形見はし神蔵し  物と変化す
  随時之宜  無有常家      時の宜しきに随い 常の家有るころ無し


    奇人。奇行。東方朔
武帝は退屈すると、いつも東方朔に話し相手をさせ、そのたびに上機嫌になる。東方朔は時には 陪食にあずかることもしばしば、食事が終ると、食べ残した肉を全部フトコロに入れてもち帰る。  勿論、着物はベトベトになってしまう。また、絹物を頂戴すると、それを無造作に担いで退出する。 帝から賜った銭や絹物がたまると、それで都のうら若い美女を娶る。が、一年もたつと、その女を さっさと捨てて新しい女を迎える。こうして、賜り物は銭も物もことごとく女のためについやす。同僚の侍従たちは、こんな東方朔をなかば気ちがい呼ばわりしていた。

武帝が耳にしてこう言った「朔に仕事をさせれば、なに事も見事にこなすに違いない。君たちには足元にも及ばないのだぞ」東方朔が一人で殿中を歩いているとき、一人の侍従が声をかけた。「やあ、朔さん、あなたは気が触れているんじゃないかと、もっぱらの噂ですよ」 「そうでしょうな、なにしろ私などは ”朝廷の中に隠遁しているものですから”昔の人は、もっぱら山奥に隠遁しましたがね」

酒宴の席でも同様である。酔いがまわると、四つんばいになって歌いだす。
      世俗の中に身を沈め 御殿の中に身を隠す
          身を隠すには山奥の 草むす庵と限るまい

あるとき、学者たちが集った席で、東方朔にこう皮肉を言う者がいた。「先生ほどの豊かな学問見識がありながら、帝にお仕えして数十年、たかだか書記官どまりとは・・」 「乱世にあっては、国の存亡は人材の得失によって決せられる。したがって、高位に迎えられる機会も多い。

だが、現代のように秩序はかたちずくられ、天下の隅々まで安定している、こう言う時代には   賢者も愚者も識別し難いのです。昔の人も”天下に災害なければ、たとい聖人たりとも、才をふるう余地なし”と言っています。だからと言つて修養を怠ってよいと言うことではありません。自分自身が充実していれば、外見上の出世などは問題ではありません。」学者たちは答えるすべも無く、だまりこんでしまった。




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