2009冬

神無月某日

 今月になって随分朝晩涼しくなった。残暑の厳しかった去年に比べると今年はかなり楽だった。それでも残暑は残暑。一段涼しくなった秋風に吹かれると何とも心地良い。それにしても何故だろうか、秋風に吹かれると懐かしい気分になる。無性に子どもの時分を思い出す。野山を駆け巡って疲れて休んだ頃吹いてきた風。一服の風と言うべきだろうか。汗伝う頬に吹く冷たくなった風。子ども心に楽しかった夏の終わりを感じた。取るに足りないつまらない人間。人に知られることもなく、無限に散らばる芥みたいなこんな俺。この俺にも一つの人生があり、思い出があるということだ。ああ、随分と遠くに来たものだ。あの頃の自分は何処に行ってしまったのだろうか。筆舌しがたい気分になった頃店が見えてきた。

 バイトが昨日今日休みだから朝早く来る。その心積もりは6番を打つため。6番は役デキの良い、かつての名機だったが、釘を叩かれずっと出ず従って常連さんにも駄目台と見られているようだ。その6番が数日前から空けられているから是非チャレンジしたかった。釘は正直微妙なところだが、役デキを考慮に入れれば十分戦える。
 予想通り先客は10番台の田山さんと1番台の帽子のオジサン、と2番台に誰か。田山さんは早くも1500発位か、釘を見るとどうも全て芳しくない。給料日後しばらく経ってこの店は回収に入るからだろうか。今日打てる台は6番、そして7番くらいか。随分楽しませてもらった8番台も常連が目をつける頃にはもう終焉状態、旬を通り過ぎている。風車下が外に流されれば終わりだろう。
 最初の当りだが、3k使った左30発目で8R。驚いたことはSPルートに1発も行かなかったこと、そして役デキは悪くはないが、以前ほど良くないのが気になる。次は左1の後漸く本日初のSPルートが1発で決まってくれて8R。だが、次に嵌る。釘は思ったとおり250発6発強程度だが、気になることは途中から玉が真ん中に寄らないことだ。以前なら絶対真ん中に来た玉があっさりと外れに向かう。大体良い台は開いた時の真ん中位に拾われた玉が寄ることだ。だが、今日はどうも連続して外れる。さらに3k追加した左33発SPルート4発目が漸く決まって8R。残り150発の左12発が8R。ここまでは拾いに関して問題ないが、次に悪化。11発拾わせて持ち玉0になった後、鳴きが衰え、拾いも悪化。現金投資の最中に鳴きや寄りが衰えると本当にこたえる。まるで梯子を外されたよう。役デキが悪化して開いたと思った鳴きがこの程度ならば完全に駄目台だろう。最早冷静に考えれば今日はここまでだ。だが、ムラ悪だとか役デキは変わると見苦しい言い訳をしながら打ち続ける。万が近づいた計9kでXに来るもこんな時は当然の如く3R。3k追加して拾った玉は僅か6発。完全に駄目台だ。こんな時16Rが来てくれれば持ち玉が消えれば止められるのに。その持ち玉は当然の如くのまれ、狂ったように投資を続ける。さらに2k追加した右1左9発目がXも3R。その持ち玉の左3で3R。1発目がSPルートに行ってじりじりやった挙句にXに来て、本日初の16R。助かった。本当に助かった。これで馬鹿な投資が止められる。さて、辺りを見回すと帽子さんが1番2番4番を移動しその度に当てるが二の矢が継げない様子。隣の7番台鳴きはあるようだが、たまに見る若者が1箱一気に出して一気に飲まれて帰っていった。唯一気を吐いているのが田山さんで下に2箱計5000発くらいか。
 その後X斑の償いをしてくれるように1発で8R。5発で16R。右1左4発で3R。10発の8Rの後、右1左3発で16Rと役デキX斑が悪夢だったように好調になり、本日18回目の大当たりが1発目8Rで決まり、下に一箱下ろす。出玉は2800発程度か。その後1発、1発、6発、6発、5発など順調にXを重ねていき5000発を突破する。自分の行為を正当化できる瞬間だ。こんなことが有るから止められない。だが、羽物に油断は禁物だ。とりわけ釘がぎりぎりの時は。鳴きムラは日常茶飯事、付き物だが、再び役デキが悪化する。今までは十中八九Xに来ていた。「キター」セリフの時も外し捲くる。真ん中に来る割合が3分の1はおろか、5分の1位しか来ない体たらくだ。6番は役が変わってしまったのだろうか。25回目の大当たりを得るため右3左41発掛かった時には出玉は2000発を切ってしまった。羽物は釘役が甘い時は何て勝ち易いのだと思う。一方釘役が悪いとその勝ち辛さを痛感する。その後役デキが改善し16R2連荘等で4000発を超え、とんとん位は目指せるかと思ったが再び役デキが悪化する。今や全く当る気がしない。最後の最後に嵌り、右3発左40発目が外れた時本日のパチンコにけりをつける。かつての名機6番台の役は変わってしまったのであろうか。ならば今まで楽しませてもらった分寂しい限りだ。だが、俺は存外にしつこい。ぜひまたチャレンジするぞ。

使った玉2250発 出玉0発



霜月

 パチンコ打ちにとって最早何を今さらだろう。しかし、この頃の台のサイクルの激しさには驚く限りだ。新装が最低二週間に一度あるのだから当然だろう。僅か一月で、早ければ一週間一寸で去っていく。台の気持ちを思うと哀しくなってくる。まさに使い捨てにされるためだけに生まれたもの。メーカーに消費され、店に消費され、客に消費されるためだけに生まれた台。まさに哀しき玩具とはパチンコ台のことではないか。
 本当は店も客ももっと台を愛したいのだろう。昔のことを言っても仕方ないことだ。だが昔を思う。昔は羽根物にしても一発台にしてもフィーバー台にしても現役時代が長かったものだ。スパービンゴ、ビックシューター、マジックカーペット、マッハシュートずっとずっと愛されていた。メーカーは儲からなかったかもしれないが、少なくとも我々打ち手には幸せだった。何年も打ち続けたものだ。今は一年持つとたいしたものだと思うほどだ。今、この愛すべき羽根物ポチッと一発おだてブタを打てるのはつくづく幸せだと思う。

 さてこの頃はどうも出玉が少ない様子。常連さんも苦心している。俺も例外ではなくこのところ勝率が低い。止め打ちができた頃は勝率が9割を越えていたが、この頃では6割程度か。まあ店のルールだし、お陰でガツガツする奴がいなくなったからこれがベストだろう。打てる喜びに沸いている。
 さて、先客は1番に久方ぶりの先生、3番に田山さん、他に8番に知らない人。先生は手元に2000発程度、田山さんは下に1箱手元に1500発と言う程度。釘を見ると余り代わり映えしない。その中で6番が若干落としの釘が開いたよう。役デキは衰えたが好きな台。開いたとなるとぜひ打ってみたい。さて、珍しくSPルート1発で3Rの後、またSPルート1発で8R。その出玉の限りでは思ったとおり微妙な釘。400発弱の出玉で14発拾わせ飲まれた。追加500円のSPルート1発目がまた決まって3R。これでSPルートは3連続当り。だが同じ三分の一の16Rはなかなか引けない。お次は右1左5で3R。次は左5発で8R。今日はSPルートに強いのだろうか、またまたSPルート1発目が決まった上待望の16R。ほっと一安心のひと時だが、肝心の釘が、微妙なところ。役デキも悪くはないが良くもない。すなわち全てにおいて中途半端だ。その後、早いXが決まる。3Rの2連荘、8Rを挟んで16Rの2連荘。だがやはり釘が足りない。プラスだが先は見えている。来たばかりでこんな台を打つようでは夢がない。移動だ。この台は人気台だから誰かさんが相手をしてくれるだろう。
 辺りを見回すとやはり何処も芳しくない様子。先生は飲まれて止めたところ。田山さんは1箱を行ったり来たり。ならばまた2番台でお世話になるか。2番台は役デキの悪い台。昔は3番台が一番デキ悪だったが、最近増しになったようで現時点では一番悪いかもしれない。ほとんど出たことがなく、敬遠していた台。だが先日打つべき台がなく、余りに釘が良かったから打ってみた。予想通り役デキに苦心したが釘の良さで勝たせてもらった。前回に比べ落としの命が若干狭くなっているが、まだまだ十分と踏んでいる。約1800発の玉を持って心機一転勝負。
 やはり真ん中に寄らない。しかしツキはある。たまたま寄った1発計右1左8発目が決まって16R。この台は嵌りが頻発するから助かる。消化を終えて勝負するがやはり役のデキが悪い。以前より酷く4発に1発くらいしか来ない。役デキは相変わらずだが、左15発拾わせた後のSPルートが決まって16R。今日は運に押されたまたま来た玉がXに決まる。この台で7回目の大当たりが16Rで初めて下に下ろす。出玉は4000個弱と言うところ。その後は大過なく出て10・11回目の当たりが16Rで本日最高の5500発を記録するもデキ悪は変わらず。さらに頼みの綱の鳴きが衰え始めると悪いことは重なるものでXに頑として来ない。次は左34右2で3R、左3右2で3R、左7右1で8R。全てSPルートで当っている。SPルート様様だ。だが、運はそんなに続かない。運が去れば来る物は決まっている嵌りだ。とにかく真ん中に寄らないのだから話にならない。本当に当る気がしない。だからデキ悪は嫌なのだ。3000発を切った左2右28発目が漸く漸くXに収まって当然の如く3R。左で当てるのに72発も費やした計算だ。これだからデキ悪は。 ところでやはり今日は芳しくないようだ。1番こそ先生の後にきた常連のおじいさんが3000発出し即効で帰って行ったが、3番の田山さんの台は2番同様デキ悪で苦しめられ飲まれて現金投資の最中。俺が打った6番は数人変わった後、今3000発くらいか。9番だけが2箱行っている。
 2番台だが、その後漸くましな波がやってきた。オカルトみたいだが、厳しい波を乗り切ると楽な波がやってくることが多い。心なしか役デキも上がる気もする。何よりも釘がいいから、2チャッカー、SPルートで助けられる。途中最後の嵌りでSPルート6発外し左43発目で当るのにストレートで2500発飲まれてしまった。不思議なことに釘が良い台でも全く鳴かず沈黙をすることが有る。一体これは釘ムラなのだろうか、それとも台の傾斜だろうか。ずっと言われてきているが、このムラは一体何によるのだろうか。その後は再び鳴きが復活して4箱目に入ったのでもう十分だろう。8時間弱打って止めにする。

2番台 16R・8R・3Rの比率 14・13・14 SPルート39発中14当・左440発中27当 
6番台 16R・8R・3Rの比率 3・3・7 SPルート14発中6当・左82発中7当 
使った玉250発 出玉8833発

 




師走

 パチンコ玉を弾く人生。その因果か、俺の人生は弾かれたパチンコ玉のようだ。何処を飛ぶのか、明日は何処に行くのか分からぬ人生。そんな俺にはクリスマスなど縁遠い世界の話だ。だが唯一思い出がある。といっても勿論ロマンチックな話ではなく、徹夜をした思い出だ。クリスマスに楽しんでもらおうという粋な配慮か、卒論の提出期限が十二月の二十五日だった。当時はまだワープロなどなく、卒論は手書きだった。流石に二留していただけあって卒論の下書きは十二月の初旬には終えていた。でも怠惰な俺はまだ清書をしていなかった。直前に、パチ好きなら分かるだろう、年末に向けての最後の新装開店のオンパレード。新装の雰囲気に飲まれて現を抜かしていると気付いてみれば締め切り二日前になっていた。それでも馬鹿な俺は余裕でいるから度し難い。いざ清書を始めると存外時間が掛かり馬鹿な俺も漸く事の次第を知った。青くなったり赤くなったりして必死に書いていたが、物理的に間に合わないことに気付いた。諦めかけた時に、トシが差し入れを持って陣中見舞いにやって来てくれた。「もう間に合わないから諦めた」と言ったら、トシは清書を手伝ってくれた。胸が熱くなった。あの不正嫌いのトシが信念を曲げても俺の卒業の手伝いをしてくれたのだから。何度もレポートをやってくれと言ったが、「彼は資料を集めてやるし、教えてやるから自分の力でやれ」と頑として不正を断ってきた。その彼が俺の字の真似をしてずっと完成まで徹夜をして手伝ってくれた。胸が熱くなった。徹夜明けのクリスマスは疲労困憊だった。だが、何ともいえない充実感に包まれていた。俺にとっては唯一良いクリスマスだった。
 今思うにトシは卒業をきっかけに俺にまっとうな人間になってもらいたかったのだろう。だが、俺は彼の期待を裏切ってしまったことになる。裏切ってはいけない友を裏切ってしまった。そんな俺には街のクリスマスは眩し過ぎる。早く穴倉にしけこもうか。

 さて、時期的には余り期待できない時期だろうか。今年最後だから何とかと思う。前回、前々回、と勝ちを拾っているので行くべきじゃないだろうが、一人暮らしの無聊さからか、のこのこと来た次第。
 さて、先客は2番台に若者、5番台にベレーさん、7番台10番台に知らない人、出玉は予想通りか芳しくない。さて、拙い腕で釘を見たところ、前回勝たせ貰った9番台、そして出ていた8番台は、落としのはかまが閉められている。6番台は変わらず、6番に比べ、8番9番は釘が良く、確実に鳴くが、これらは役次第だ。ならば大好きな6番にかけてしまう。とその時に2番台の若者が止めて行った。釘を見ると2番台が一番有効だ。しばし迷うが、止めてしまう。その理由はこの台が開いたのを見つけたのは他の人だから。人が出した台を後に打つのは気分的に良くないもの。開いた台を見つけて勝つことにこそ醍醐味があるということだろう。何て甘いことを考えながら6番を打つ。さて、存外に鳴きがあるがXに来ない。Xを掠めて外れるからやきもきする。そしてやっと来たのが、左23発、右3発目の計26発が漸くじりじりと回ってXに来る。5k使ったからぎりぎりか。ほっとする一瞬だがまだ気が抜けない。そらやはり、3Rだと。だが次は早かった。1発目がSPルートにきてX。だが、また3R。カス連続の一方で次も早い。左1発目の玉が弧を描きながら赤いXゾーンにすぽっと決まってくれる。本当に気持ちよい瞬間。そしてこれが待望の16R。できた!といいたい瞬間。長い長い大当たり消化時間も楽しく感じられる。
 次も左5発目で3Rだったが、やはりこの台は鳴きが厳しい。そして致命的なことが。この台少なくとも左に行った玉に2発に1発はルーレットに乗るのだが、このひねくれ者、俺が慢心したためか、デキ悪と化す。尽く左に行った玉が、即効で外れ穴へ。おまけにこういうときにはSPルートにこず、なおかつたまに来ても外れる。計30発外れて飲まれてしまう。その後投資を続けるが、鳴きも拾いも落ちて、釘が足りないのを実感する。そもそもこの台は左の3発に2発近くは来る。それだと左に9発拾えばXに来る計算だ。だが、2発に1発だと12発必要で、なおかつ現時点では3発に1発しか来ない状況では18発必要な計算になる。この差は大きい。普段と今では大当たりを得るために二倍の玉が必要なことになるから。今現時点ではぼろ負けの台と言うことになる。
 さて、周りに状況だが、隣のベレーさんも飲まれて苦戦。他にも予想通り8番、9番も駄目の様子。まだ傷も浅いから引けばよいのだが、これが俺の駄目なところ、実は2番にサラリーマンが座って大当たりを連発している様子。どうもデキ悪2番台が今日は役が良いようだ。打たないと決めていたが、何となく面白くない。だから、一日のうちにも役デキは変化することがあると言い訳をして続行する。そういう甘い考えは何度も命取りになるのだが。 大当たりは右2発、左38発目がやっと決まってくれる。16R。計8.5kの投資。3.5kで10発しか拾ってないので酷い状況だ。やはり釘は足りない。次は左5発、右1発で8R。次も左1発、右1発で16R。役デキは回復傾向にあり、少なくとも2発に1発はルーレットに乗るが、今度は当らなくなる。持ち球が飲まれかけた右2発左26発で漸く16R。だが、その後鳴きが回復することはなく、また役デキもそれ以上向上することはなかった。右1左10で8R。右1左13で同じく8R。左7で3R。そして右2、左14発が外れて飲まれてしまった。今はこれまでだろう。最早これ以上無駄金を使っても詮無いことだ。
 ベレーさんは約2000発、件の2番台が5000発くらいか。他は客が入れ替わるが芳しくない様子。結局正解は2番台。否それよりも家でコタツで丸くなるのが正解だった。

6番台 16R・8R・3Rの比率 4・3・4 SPルート14発中3当・左143発中8当
使った玉2125発 出玉0発




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