2008秋

葉月某日

 パチンコファンの間でもっとも有名人といえば、故田山幸憲氏がいるだろう。パチンコ打ちのバイブル『パチンコ日記』の作者だ。俺も執筆当時の雑誌の愛読者だった。彼が多くの人に愛されたのは、彼の生き方と行動が一致していたからだと思う。彼は普通の生活ができない人間だった。それを熟知して自ら日陰者であることに甘んじていた。彼はパチンコ屋の客に暖かい目線を向け、驚くことにそれはゴト師にもむけられていた。ただ、いやしくガツガツと金を汚く稼ぐ奴を忌み嫌っていた。彼は一日の稼ぐ金は数千円で良いといっていた。日陰者たるもの、酒を飲め、生活できれば良いという姿勢が潔い。
 俺は彼の気持ちがわかる。俺は卒業後しばらくパチンコ無職を続けていた。意を決して就職したが、田山氏のように再びパチンコ屋に舞い戻ってしまった。その後何度か友人の推薦もあり社会復帰したが、その度に舞い戻りパチンコ無職に戻ってしまった。パチンコの勝ち金で暮らすことに筆舌しがたい罪悪がある。働くことが決して嫌いなわけじゃない、むしろ好きなくらいだ。だが、臆病者なのだろうか、どうしても普通の暮らしができない。それで生活できるパチンコを捨てられない。俺は家族に捨てられ、心ある友人を失った。俺はパチンコを捨てず、家族と立派な友人を捨ててしまった。氏の言葉を借りれば「度し難い」奴なのだ。

 バイト帰りの午後5時過ぎ、X店に到着、何時ものように何時もの席に着席して、貯玉で打ち始める。機種はCRぱちんこ冬のソナタ2。この店では2500発までは手数料が要らないので、仕事帰りに何時も利用させてもらっている。前々回は207回、前回は195回で当りなし。大体2500発で200回位回しているので三日に二日弱当る計算か、そろそろ当りそうな感じだが、今日はアツイリーチすらかからず2250発使う。最後に貯玉ボタンを押すか押さないかの瞬間、降雪リーチが始まった。このリーチ信頼度は不明だが、俺に関しては良く外れるので期待せず、帰る用意をしていたところ、案の定、外れたと思ったときに、ポラリスが回って、「ユジン」で当り。189回転目。しかし、ポラリスを見ている時に、実際に動くと意外に驚いてしまうな。この確変は25回転、4が揃って一回で終了、時短も当らず。しかし、この店は良心的だから、あわせて200発くらい増える。その玉も含めて、154回転回して空、もう一箱も129回転回して空になった。ところで何時もはしつこい位リーチがかかるが、今日はアツイリーチは勿論のこと、長いリーチもほとんどかからず終わってしまった。冬ソナは、当らないリーチがやたらとかかるから鬱陶しいと思っていたが、あまりかからないのも寂しいものだなと思う。二時間強で店を出る。
 

長月某日

 時短中の止め打ちを禁止されたことがある。器具などを使うわけではないし、稼動を落とすわけではない。本来パチンコと言うのは、いかにアウト穴に入れないようにセーフ穴に入れるかのゲームで、セーフ穴であるチューリップが開いている時に打って、閉じている時には打たないのはパチンコのゲーム上当然の行為だ。結果、セーフ穴が閉じている時に打つのを止める止め打ちはパチンコの客としては正攻法だと思う。しかし、止め打ちを店が禁止するならそれに従う。店のルールには従うべきだし、店が負けを認めていると考えるからだ。本来店も正攻法である釘の開け閉めで勝負すれば良いわけだけど、それができないから禁止しているのだ。また、店は他の客が楽しむために開けていることも考えられる。他の客のためにサービスをしているならば良心的な店だろう。そんな店で我を張れる身分じゃない。そもそも閉めている店で止めうち禁止ならそんな店ハナから行かねばいい話だ。
 だが、スタンスに迷う。悪いことをしているわけじゃなし、堂々と止めうちすれば良いわけだが、堂々と止めうちするのも逆に感じ悪い気もする。結果こそこそすることになる。パチンコという勝負をする以上、勝つためのベストを尽くすし、しないのならば勝負事などやらないほうがまし。でも店とのトラブルは避けたいものだ。ガツガツ稼ぐつもりはない。だいち数百円の話だろう。だが、金じゃないのだ。長年パチンコを打っている俺にとって死に玉を打つのは金以上に辛いことだ。だからできれば技術介入なし、釘一本勝負の羽根物が増えてくれればと思う。

 今日はバイトが残業になる。派遣切りの昨今バイトがあるだけましと言うものだが、パチンコが打てないのは少々味気ない。8時過ぎに何時ものT店に到着。CRぱちんこ冬のソナタ2。この店も貯玉で打て回りはX店とほぼ同じだが、この店は止め打ちを特殊打ちとみなし一律禁止している店だ。でも名誉のために言うが、この店は良心的で止め打ちなしで50発〜100発ほど増える。だが、パチンコ打ちにはつまらない店だからやはりX店に行く。
 さて、ここでも何時もの台に座る。大体125発ずつ、500円ごとに10回回るかを基準に打つが、やはり結構ムラがあるものだ。今日も8、7、18、5、8、13…と言う感じ。もっともこれ位は普通なのかな。今日は結構黒い扉のリーチが3回かかるが、とりわけ最後は4回滑り+「チュンさん」だったから来ると思ったが、あっさり外れ。2250発を使った176回目ミニョンモードリーチが掛かる。時刻は9時前の上貯玉は後250発、ボタンを押した後のハートマークは最低の1個だったから当然外れだと思ったら、何と2Rに点灯している。さて、嬉し哀し。貯玉分で来てくれれば、と思うがリーチすら掛からず23回回したところでゼロ。怪しい雰囲気。9時過ぎに現金投資。さて、五百円ずつ足しで行くが、こんな時にはリーチすら掛からない。二個打ちをしていたが、とにかくとりきれないことを考え、3個打ちにする。当然起こることだが、90回回しても当らない。93回目に滑り4回+紫+「チュンさん」で8のリーチが掛かりほっと安堵する。やっと当たりかと思ったら、「ガチャーン」とやる。イヤーな予感を抱えながら右のポラリスに目をやるが、当然動くはずのポラリスが全く動かず外れ。予感的中。回りは100回を超え、投資は4Kを超えた。これで一回分の当りは完全に消された格好。運が悪いとはいえ、この突然確変は納得できないもの。100回転させればほぼ1回分の当たりは帳消しになるわけだから。いらいらしながら半ば諦めた144発目に4が滑りなしにリーチが掛かり、緑扉+「チュンさん」で444。昇格はなし。10時前でやっと当ってくれた。時短は10時少し過ぎに当らず終了。この店は10時45分閉店だから当然流して終わり。何のことはない。貯玉2500+現金投資5.5k追加で1500発の獲得。時短中に100発弱増えたのが唯一の収穫か。心身ともに疲れきって10時半前に退店。
 もちろん突然確変は冬ソナのせいでないだろうが、時間が掛かる上に玉がとられ通常では頭にくるだけだろう。当りのバラエティが増えるのは良いが、そのあたりも考えてほしいものだ。


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