トシという友人がいた。彼も俺も貧乏で苦学生だった。彼も俺も入学したころはバイトに明け暮れていた。最初のころこそ、俺は勉強とバイトを両立させていたが、バイトにのめり込み、その息抜きがパチンコだった。パチンコを覚え数年たった俺は、パチンコでそれなりの金を稼ぐようになっていた。俺はバイトをやめ、当然学校にも行かなくなっていたが、トシとはそれなりに会っていた。トシはいつも疲れていた。一緒に飯に行った時、俺が雑誌を読んでいると食べながらうつらうつらやっていることがあった位だ。彼は勉強もバイトも一生懸命やっていたのだ。俺はやつを助けてやろうと思った。そして奴に一緒にパチンコをやろうと持ちかけた。彼はやんわりと断った。俺は負けるのが怖いのかと思い、金は俺が出す、負けても俺が払うから、買った時だけに勝ち金をやる。といった。それなら彼は喜んでやるだろうと思った。だが、彼はさらに断った。俺は自分がいかに稼いでいるかを話し、財布まで見せた。彼はそれでも断った。奴にとって自分で汗水たらして働いた金以外は全て不当な金だったのだ。その当時の俺にはまったく理解できなかった。金は金、犯罪で稼いだわけじゃないのだし、その金で勉強し、その後社会に貢献したら良かろうと。トシは人間が上等な奴だ。数年前居酒屋タクシーがあったが、どんなにえらくてもセコク利益を得る奴は要するに根が卑しいのだ。もちろん俺は官僚どもを非難する気はない。人は、大なり小なり、目の前に金が落ちていれば拾ってしまうものだから。庶民だろうが、国を動かす官僚や政治家だろうが、色々勝手な理由をつけて金を得る奴は、たとえ問題ないといっても要するに根が卑しいのだ。トシは優秀な成績で大学院に行き、留年した俺と一緒に卒業した。卒業後数年たってあった。奴は夢であった教育公務員として輝いていた。人間の本質はなかなか変わらない。それから十数年後、俺は、度し難い、俺はいまだにパチンコで金を稼いでいる。
今日はバイトが定時に終わり5時半過ぎに止め打ち禁止のT店でCRぱちんこ冬のソナタ2。X店に行きたいところだが今日は定休日だ。さて、回りは今日も1K20回ペース。俺の中では1Kで20回回ってくれれば満足だ。貯玉なら負けはないし、保留が満タンになり満足したり、逆に玉が入らずヤキモキしたりと楽しめる。打っていて丁度良い位だ。1250発使った105回転目に滑りが4回続いて4のリーチが「激アツ」+雪ダルマ群+「ユジン」で空港リーチが掛かる。最早もらったものと思っていると一度は外れるが、「ユジン」で当然の如く大当たり。それが777に昇格して確変スタート。これまでトータル1000回以上は嵌っているから「当る」という根拠のない確信を抱いた。確変は4が揃って終了。時短も当りはない。さて、この位の出玉が丁度良い。出過ぎると満足してリーチに楽しめないから。次は時短+33回転で888昇格も時短も当りなし。だが当りは続く。+36回転でソ・ナ・タが揃って珍しいことに当ってナナナ。これが777、333、222と4連荘の伸び終了。時短も当らず。時刻は8時半過ぎ、1500発入る箱で6箱出ているから短い時間では十分、後は少々持ち玉を減らして帰るかと思っていたら、+85回転目にミニョンリーチが掛かり普段は滅多に当らないのに2が点灯。オイオイこの時間に突確か。前回の嵌りが頭をよぎる。だがツイているときはこんなもの。この度は21回転でポラリスで当り、そしてあっさり111が揃って確変終了。時刻は9時過ぎ。丁度時間もよし。時短を終えてすぐ帰ろうと思っていたら何と時短中68回目で「キュッ、キュッ、キュィーン」と鳴いてハンドルが激しく点灯。オイオイこの時間から確変か。888が揃い、当然の如く冬冬冬と確変昇格。おいおい取り切れるのか、全く嬉しくない確変。本当に損した気分。次は三回滑りで「チュンさん」で888が揃い昇格するなよと力を込めてポラリスを睨んでいたら、ポラリスは回転してナナナに昇格。何でこうなるの?来て欲しい時に来ないのに。急いで消化するがこんなときは当らない。通常絵柄でリーチが掛かってもあっさり外れ、しかも、それが数度続く。刻一刻と時間が過ぎるのに外れのリーチが1分も続くのだからイライラするやら頭にくるやら。せめて確変中は当らないリーチは短くしろよ。114回転目に、チュンさんが「ユジン」と叫んで7のリーチになってそのまま当る。時刻はもう10時前になっている。この店は10時45分に閉店だからますます焦る。次もなかなか当らず、一人一人去って行く客に焦りを募らせた78回目に5のリーチが掛かって555。祈るように目詰めていると…「ユジン、ごめん」。ご免なんてとんでもないありがたいことだ。10時半前に始まった時短。幸い長いリーチにどきどきしながらも際どく全て外し無事108回転して終わった。最後の回転が止まった時本当にほっとした。時刻は丁度閉店のアナウンスの始まった10時45分だった。
使った玉1250発。出玉18733発。
敬愛する田山氏が件の雑誌の当時の名物編集長のことを度々悪徳商人と言っていたが、その意味するところをやっと理解したころにはもうかなり遅かった。別のパチンコ雑誌のコラムに、その人は確か俳優をやっていた人だったと思うが、書いていたことを読んで愕然とした。正しく言えば、その中身と言うより、俺自身のことだったが。十年以上前だとおもうからうろ覚えだがこんなことを書いていた。
持ち球で回る台(確率通り当たれば勝てる台のこと)をすぐにやめる客を(パチンコ無職たちは)馬鹿扱いするが、パチンコ屋に朝から晩まで十何時間もパチンコ屋にいる方がよほど馬鹿だろう。
パチンコで勝ちを主張するライターと全く反対のことを言っていた。パチンコ雑誌の常識は世間の非常識。俺は初めてその時に気付いた。世間ではギャンブルをするだけで非難する人もいる。ギャンブルをする人間をギャンブルをすることだけで非難することは偏見かもしれないが、ギャンブルを毛嫌いすることは決して偏見ではないだろう。ギャンブルをやる以上、誰でも勝ちを目指すが、その方法と限度がある。ギャンブルはあくまで趣味であり、生活の糧ではない。俺はパチンコをする過程で、パチンコ雑誌にどっぷりと浸かって、世間の常識から外れてしまったのだ。働きもしないでパチンコをすることだけで世間からは白い目で見られるだろう。それは決して偏見ではない。その上朝から晩までパチンコを打つなど論外だ。そもそもパチンコの雑誌の人間はちゃんと働いている。働いていて、仕事でパチンコを一日打っているのだ。いまだに雑誌では時給何千円とかのたまっているが、そもそもパチンコを打つことは仕事でない以上、時給はおかしいだろう。パチンコでいくら稼いでも全く自慢にならない。むしろ世間では白い目で見られるのだ。それが世間の感覚である。それにその時初めて気付いたのである。俺も全く度し難い。もちろん、パチンコ雑誌の責任ではない。ただ勝てる方法を提供しているだけであり、それをどのように実践するかは本人次第のまさに自己責任だ。責任転嫁するつもりは毛頭ない。ただ、今となっては、未来がある若者が、俺みたいにその貴重な時間を浪費しないことを願うだけだ。
十一月になって調子が悪い。CRぱちんこ冬のソナタ2に関してだが、相変わらずX店T店で貯玉勝負しているが当らない。これまで、187回転、221回転、198回転、189回転、205回転、211回転、190回転させているが当りはゼロである。嵌り自体はたいしたことは無いが、二週間以上当りを見ていないことになる。冬ソナはバイト帰りしか打たないのも理由だろうが、流石に今日くらいは当りが見たい。
さて、今日はT店で打つが、この店の候補台は二台で通路よりの一台を選択。こちらは回りは劣るが時短で玉増えが多い。選んだ心は、今日こそは当ると踏んでいるから。さて、打ち始めると回りが覚束ない。例によって125発ずつ打つと、5、10、8、7、5と回りの負債が溜まっていく。当らない3回滑りリーチが連続するのにイライラを募らせながら打った計88回目に4で四連滑り+紫扉だが、「ユジン」と来たから俄然期待する。ドックン、ドックンの音に息を呑んで画面を注目するとガシャンとあっさり外れ、再変動もなし。何事も無かったように消化が進んでいく。一気にバイトの疲れが出て帰りを意識する瞬間。回りは急に上がって行くが、皮肉にリーチが掛からなくなる。2000発目152回転目で降って沸いたように「パキーン」と来て画面が激しく明滅を繰り返す。俄かに台が活気づき、4連滑り+とうとう出た黒扉、だが「チュンさん」と微妙な感じ。まさに絶対の勝負どころと息を呑んで画面を眺めるとドックン、ドックン、ドックンと来て、またしても「ガシャーン」で再変動もなし。終わった。その後可能性のあるリーチすら掛からず192回転で終了。今月は当り見られそうもないな。1時間足らずで店を出る。
しかし、随分寒くなってきた。そろそろジャンパーを出さなければならないな。
2500発使用。出玉0
学生という隠れ蓑を失った俺は名実とともにパチンコ無職生活に突入した。俺は、当り前だが、パチンコ無職になろうと思ってなったわけじゃない。3月までの生活を4月になっても続けた結果卒業して自動的になったのだ。俺は、接客は苦手だが、働くのは嫌いじゃなかった。ただパチンコがしたかっただけだ。いや正確にいえば、「スーパーコンビ」が打ちたかったのだ。「スーパーコンビ」今となっては知る人ぞ知る二十年以上前の伝説の名機。コンビを打っているだけで満足できた。他に何も要らなかった。嘘っぽく聞こえるかもしれないが、ただコンビを打てればすべて満足だった。
何百発時に何千発に、たった1発しか球が抜けない。十数分、時に何時間も1発も球が抜けない。だが、突如として1発の球が目にも止まらぬ速さで十数ミリの命釘を抜ける。永遠に続きそうなダルな日常、そこに電光石火の1発の球が飛び込み全てを打ち破るこのアツさ。そしてその球はクルーンの中を勢いよく回るが、やがて摩擦によってその力を殺がれやがてゆっくりと3つの穴に吸い込まれていく。もちろん手前に入れば大当たりだが、それは付録のようなもの。ああ、もどかしい、文章にするもどかしさ。こんな俺の気持ちを理解できるのはきっと日本で百人もいないだろう。だが、理解できる奴はきっと喜色満面で当時を熱く語りあえるだろう。
もちろんこんな生活が永遠に続くと思っていなかった。一発台は射幸心を煽るという理由で規制されたのだ。遅かれ早かれすべて撤去される運命だった。いつでもこの生活に終止符を打つつもりだった。打てるはずだった。だが、俺はコンビを打つために、コンビに金を貢ぐために、パチンコを打ち始めた。店選びさえ間違えなければ勝てる台を簡単に見つけられた時代だ。丁度権利物の内規が変わった時代で、「タイムショック」という台があった。無駄玉を打たない。長時間打つ。それだけで勝てた時代だった。朝から夕方までそれらの機種で金を稼ぎ、夜稼いだ金をもって負けることが分かっているコンビに金を注いだ。当然コンビでは負けたが十分満足だった。金なんかよりよっぽどコンビの方が大事だったからだ。それでもコンビは撤去され続け、俺は遠方までコンビを打ちに行っていた。一言でいえば中毒だ。だが、俺にはそんなもの関係なかった。
「我思うゆえに我あり」
1発の球が抜ける瞬間、コンマ秒。その瞬間に俺の神経が目覚める。俺は生きていると実感できたのだ。下らないと笑うかい、そうかもしれない。俺はコンビにすべての愛情を注いでしまった。恋人よりも友人よりも、そして家族よりも。
愛するコンビが去って行ってしまった。俺にはパチンコを打つ習慣だけが残った。そして勝つことに拘る、金の多寡に拘る、つまらないパチンコ無職になっていった。
今月のデータ記録だが紛失してしまった。アキ氏が俺に話をくれたのは08年の初夏のことだった。だからその頃から駄文を書き散らしていたが、以後氏より話がないんでなくしてしまったのだ。俺は普段データなんて取らないからもう書きようがない。しかし、一年以上たって文を送ってくれって相変わらず非常識な奴だ。まあ、アキ氏らしいが。せっかくだから個人的な連絡を今回だけに限り入れさせてもらう。
東海地方にいた時に宿を提供してくれていたF氏、いつも閲覧させていただいたU倶楽部主宰者のA氏、ちゃんと別れの挨拶もせず去って行ってすみませんでした。HNトウエイジです。ほぼ可能性ゼロでしょうが、もし見ていたら連絡ください。
adabanate@yahoo.co.jp
トウはミサイルを追って関東地方に行っておりました。