コンクリート住宅を選択した理由


1.本当は木の家が欲しかった

 私は,大学で木材加工の研究をしました。木という素材は大変好きであるし,家づくりに最適な構造材はやはり木だと思います。小さな犬小屋から大断面集成材を用いた梁を使えば「出雲ドーム」に見られるような建造物まで建築が可能です。

 それでも,木造軸組工法を選択しなかったのには理由があります。どんな家でも必ず「建築基準法」に適合したものでなくては建てることは出来ません。その建築基準法には,接合部に金物を用いることや,筋交いを入れることなど事細かに記述されています。これによって,安全な家が出来るのだから良いのではないかと思われるかもしれません。しかし私たちはここに疑問を抱きました。金物の悪い点は酸化が始まると腐食してしまうところにあります。つまり,さびるとボロボロになるということです。本来,木造軸組工法はその仕口を手作業で仕上げることによって強い躯体を生み出すことが出来ました。特に,「新木造」と呼ばれる仕口を加工せず,金物で引っかける工法は重要な部分がさびてしまう金物なのです。これでは木を生かした家ができるはずがありません。また,有名な宮大工の西岡常一さんもおっしゃられていたように,使う木材はそれぞれ立木の状態がどうであったか,木のクセを見抜いて使って行かなくては歴史的建造物のように長く使える建物はできないわけです。また,「木組みは人組み」といわれ棟梁は大工の和を大切とし,その人のクセも見抜かなくてはいけないわけです。

 では,鉄骨づくりはどうでしょうか。鉄という素材は高温になると飴のように簡単に曲がるものです。こんな話を聞いたことがあります。消防士は鉄骨づくりの家が火災になった場合,飛び込むことをためらうそうです。つまり,ひとたび火災が起こればその構造材である鉄骨が曲がることで,崩壊してしまうわけです。木造の場合,こうはいきません。「柱が燃える」というのは,実は「柱の表面が燃える」ということなのです。表面が炭化し,それ以上は燃えないため,簡単には崩壊しないということです。

 2×4や木質パネル住宅はその剛性を釘や接着剤に依存するわけで,どの程度の信頼性があるか疑問です。接着剤といえば木造住宅の柱に集成材を使用する場合がずいぶんと多くなりましたが,これの良い点は木材の悪い点(節や空隙)をなくすことにより,構造計算ができるようになった点だと思います。しかし,集成材に使う接着剤はどんなものを使いますか?という質問にきちんと答えたメーカーはありません。集成材で作られた家で100年経過したものはまだありません。計算上は可能なのでしょうが,実際に時間が経過してみないと一生に一度の買い物ですから納得はいかなかったわけです。

2.マウスの実験から

 木造住宅が良いという説得材料のひとつにマウスを使った実験があります。

 木製,金属製,コンクリート製の3つの飼育箱にそれぞれ杉のおがくずを敷き,数週間の後に交配する実験です。交配の結果誕生したマウスの生存率が木製の場合85%,金属製の場合41%,コンクリート製では7%であり,かつ生存したマウスの発育状況もこの結果に比例するというものです。

 これを住宅にそのまま当てはめるのはある意味間違っています。木造でも外壁はサイディングであるし壁紙の内側は石膏ボードであるし,すべて木でできている住宅はないわけです。しかし,ある意味では正しいということを添えておかなくてはいけません。人は,コンクリートの上で作業をするととても疲れるし,木が敷いてあればつい座りたくなります。学校は鉄筋コンクリートで建設されるところがほとんどですが,内装に木を多用すると子どもは落ち着くそうです。しかし,全面に木を貼ることなど予算面からできない。そのときは腰壁を施工するだけでずいぶん違うそうです。

 私は,現在鉄筋コンクリート造のマンションに住んでいますが,カーテンを引いていると外の様子が分からず,外出しようとしたら大雨でびっくりした!なんて言うことがよくあります。一般に騒音は敬遠されますが,葉が擦れ合う音や鳥のさえずりなど本当は耳に入ったほうが精神的にはリラックスできます。遮音性を重視するとこんな弊害もあるわけです。

3.見えないところの手抜きは善?

 まだ,中古物件を探していたときの話です。気に入った建築条件付きの土地があったので,その建築を請け負う工務店の建築中の物件を見に行ったときの話です。まだ,何も知らないころのことですので,どこを見てよいやら分からないままキョロキョロしていると,社長さんが話しかけてきました。「あの物件はこれよりどっしりした柱を使うよ。」と。

 また,その1年後に別の木造メーカーの建築中の物件を見せていただいたときのことです。いろいろな見学会に出かけて見るポイントも分かってきた頃です。その物件は,これまで目にした木造となんだか違う雰囲気にとまどいました。そして,それが柱の太さと梁の数の違いであることに気づきました。そのとき同行していた設計の方に柱が細いことと梁の数が少ないことについて伺いました。すると,「これは建て売りだからです。」ということでした。

 いざ,契約となると値交渉することはよくあります。それがもしもこんなところへ影響していたらあなたはどうしますか。木造の住宅は坪単価なんてどうにでも操作できます。坪単価というのはあまり意味のない価値観です。

 それでも施主が喜ぶのだから...とこれを「善」の立場でとらえることもできます。

 パルコンの場合,コンクリート板は工場で生産・管理され,手の抜きようがありません。安く契約したからといって,コンクリート板を軟弱なものを持ってくるということは決してありません。なぜなら,構造計算書といって分厚い冊子が届けられるからです。これが動かぬ証拠となります。

4.住宅の寿命

 住宅が寿命を迎えるということは二通りの理由があります。一つ目は構造体そのものの寿命。二つ目は生活様式にあわなることによる寿命。めまぐるしく社会が変化する現代では二つ目の理由による立て替えや住み替えがほとんどです。コンクリート住宅の法定耐用年数は48年ですが,私はこれはいくら何でも,と思います。なぜなら,躯体は丈夫でも,生活様式は必ず変わるからです。

 そのため,今回の建築にあたっては,2世帯住宅や3世帯住宅となってもリフォームが可能なようにコンクリートパネルの入れ方に工夫を施しました。また,水回りの追加工事することをさけるため,先行配管を徹底的に行いました。そのため,PS(パイプスペース)が出てくるのですが,後悔することの無いようこだわりました。

 大成建設が前面に押し出すインフィル&スケルトンという考え方がコンクリート住宅の寿命をさらに延ばしていくのだと思います。

5.パルコンの良い点,悪い点

良い点

・壁体内結露が起こらない。(構造体がコンクリートであり,壁体内というものがそもそも存在しない)

・六面体で構成するため剛構造となり地震に強い。

・生活音が伝わりにくい。 

悪い点

・コンクリートの中性化は避けられない。(中性化すると内部の鉄筋がさびてしまう)

・増築は基本的に不可能である。(あらかじめ増築することが分かっていれば,設計段階で増築に耐えられるよう構造計算をかけてもらえる。しかし,間取りに制限が加えられることになる。)

・法定耐用年数が48年であり,他の工法と比して固定資産税が長期間減額にならない。


[参考文献] 法隆寺を支えた木 西岡常一・小原二郎著 NHKブックス刊 1978

        木づくりの常識非常識 上村武著 学芸出版社刊 1992


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