羽 林 郎 辛 延年 雑曲歌辞 羽林郎=近衛武官の名。 |
昔有霍家奴。 昔し霍家の奴 有り。 霍家=漢の武官の時の大将軍、霍家の家のこと。 |
姓馮名子都。 姓は馮 名は子都.。 馮名都=霍光の監奴(小物がしら) |
依倚将軍勢。 依して将軍の勢に倚る |
調笑酒家胡。 酒家の胡を調笑す 調笑=嘲笑に同じ |
酒家胡=酒楼に雇われた胡姫 |
胡姫年十五。 胡姫は年十五 |
春日自当壚。 春日 自ら壚に当たる。 自当壚=店前で酒を売りに出ている |
長裾連理帯。 長裾 連理の帯。 連理の帯を画く帯 |
広袖合歓襦。 広袖 合歓の襦。 双鴛鴦を画く短衣。共に許嫁の夫の有る子都を示す |
頭上藍田玉。 頭上には藍田の玉。 藍田=地名。美玉を産出する有名な土地。 |
耳後大秦珠。 耳後には大秦の珠。 大秦=西夷の国名。ローマ帝国、と言う説もある。 |
両鬟何窈窕。 両鬟 何ぞ窈窕たる。 鬟=髪に飾る玉環。 窈窕=美好の貌 |
一世良所無。 一世の良に無き所。 |
一鬟五百万。 一鬟五百万.. |
不意金吾子。 意は不りき金吾の子。 金吾子=執金吾に同じ官名。子は敬称 |
娉婷過我廬。 娉婷として我が廬を過ぎんと。 娉婷=容貌の美なること。 |
銀鞍何煜爚。 銀鞍 何ぞ煜爚たる。 煜爚=かがやく。 |
翠葢空踟躕。 翠葢 空しく踟躕す。 翠葢=青く覆いのある車。 |
就我求珍肴。 我に就き 珍肴を求むれば。 |
金盤鱠鯉魚。 金盤もて 鯉魚を鱠す。 |
貽我青銅鏡。 我に青銅の鏡を貽り。 |
結我紅羅珺。 我が紅羅の珺を結ぶ。 |
不惜紅羅裂。 紅羅の裂けるを 惜まず 不惜紅羅裂=強く逃れるに無理に捕まえ て紅羅の破れるのも惜しまずぐらいだから |
、若しその意に従ったら、それこそ、自分の 賤しい身はどうなるか知れない、との意。 |
何論軽賤躯。 何ぞ賤躯の軽きを論ぜん |
男児愛後婦。 男児 後婦を愛し。 |
女子重前夫。 女子は前夫を重んず。 |
人生有新故。 人生 新故あり。 |
貴賤不相踰。 貴賤 相踰えず。 |
多謝金吾子。 多謝す金吾の子。 |
私愛徒区区。 私愛す徒らに区区たり。 |
「意解」 羽林郎は勢力ある近衛武官を扼める胡女を詠じた詩。 |
昔し漢の武帝の時代に大将軍霍光の監奴(こもがしら)に馮子都と言う男がいた。此の男は大将軍の虎の威厳を借りる狐で何時も酒樽に上って酒を飲み胡姫をからかい、非常に傲慢の奴であった。胡女は、まだ年が若くやっと十五である。春の日長に自から酒樽の店前の酒甕が置いてある側にいて、お客に酒を売り愛想を振りまいていた。身には、長い裾の着物をつけ、連理の枝を描いた帯を締め、袖は広い鴛鴦の画を描いた合わせ襦袢を着ていた。そして頭の上には藍田から出た玉、耳の後ろには太秦から出た珠を飾っていた。その外、両方の鬢には千万金もする玉環を着けていた。様子を見ると許嫁の夫があるらしいが、如何にも愛くしい少女であった。偶々、天子の非常を警戒する、風采のよい執金吾の役人が此の酒廬を過ぎつた。銀の馬鞍はテラテラと輝き、青い覆いのある車が前に停車した。 |
是は馮子都であった、胡女は子都が此処に来るとは夢にも思いもしなかった。そこで求められるままに紐で玉壺をさげ、金盤に鯉魚を鱠にして、うやうやしく酒ち肴をささげ出した。所が子都は青い銅鏡を賜はって、強いて妾も紅い羅裾を結ぼうとした。そして妾の羅裾の裂けるのも構わず無理、無体なことを遊ぶ、実に悔しい。若し妾が御意に従ったら、それこそ妾のような、賤しい身分のものは、どの様になるか解からないと思った。そこで、妾は子都に向かって言った。妾がもし身を子に委ねるとも、永く子の愛を保つ事も出来ますまい、また妾にも忘れられない前夫があり、おまけに貴賤の身分が違っています。妾は深く子の好意を嬉しく思いますが、妾はただ酒家の女として厚く子を愛するのみである。 |
(注)沈徳潜は其の区別の例を示して、説詩晬語に『風騒(詩経・楚辞)既に息みて漢人代はり興り、五言は標準となれり、 五言の中に就いて言えば、較然として両体あり、「蘇李の贈答」「無名氏の十九首」は古詩の体なり。「廬江小吏」、「羽林郎」、 「陌上桑」の類は楽府の体なり。』と著述している。 |
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