★★高適★★      
高適の詩は気骨が高い。高適は遊侠の徒に入っていたと言う。遊侠とは,世間の礼教を顧みず,不合理な世相に我慢ならず,ただ義の為に命を捨てようとして,自から当世の機構にはずれた者の行く道であった。中年以降は至誠を正し,佳詩を残している。

   除夜作
旅館寒燈独不眠。   旅館の寒燈 独り眠らず
客心何事轉凄然。   客心 何事ぞ 轉々凄然
故郷今夜思千里。   故郷 今夜 千里を思う
霜鬢明朝又一年。   霜鬢 明朝 又一年
  古来絶唱とされている。旅にあって除夜を迎える孤独寂寥の情をうつして余りがない。

   九曲詞
鉄騎横行鉄嶺頭。   鉄騎横行す 鉄嶺の頭
西看邏姿取封侯。   西のかなた邏姿を看て封侯を取らむ
青海只今将飲馬。   青海 只今 将に馬に飲はんとす
黄河不用更防秋。   黄河用いず 更に秋を防ぐ
詩語解:
邏姿:=今のチベット拉薩を言う


   塞上聞吹笛    塞上にて吹笛を聞く
雪浄胡天牧馬還。   雪浄く 胡天 馬を牧して還る
月明羌笛戍楼間。   月明かに羌笛 戍楼の間
借問梅花何処落。   借問す 梅花 何れの処よりか落つる
風吹一夜満関山。   風吹いて 一夜 関山に満つ

  全唐詩には
胡人吹笛戍楼間。
楼上蕭条海月間。
借問梅花凡幾曲。
従風一夜満関山


   別董大
十里黄雲白日曛。   十里黄雲 白日曛ず
北風吹雁雪紛紛。   北風 雁を吹いて雪紛紛
莫愁前路無知己。   愁うる莫かれ 前路知己無きを
天下誰人不識君。   天下誰人か 君を識らざらん

   人日寄杜ニ拾遺    人日 杜ニ拾遺に寄す
人日題詩寄草堂。   人日 詩を題して 草堂に寄す
遥憐故人思故郷。   遥かに憐む 故人の故郷を思うを
柳條弄色不忍見。   柳條 色を弄して見るに忍ばず
梅花満枝空断腸。   梅花 満枝に満ちて空しく断腸
身在南暮無所預。   身は南暮に在って 預かる所無く
心懐百憂復千慮。   心に懐く百憂 復た 千慮
今年人日空相憶。   今年人日 空しく相憶う
明年人日知何処。   明年人日 何れの処なるを知らん
一臥東山三十春。   一臥東山 三十春
豈知書剣老風塵。   豈に知らんや 書剣 風塵に老いんとは
龍鍾還忝二千石。   龍鍾 還 忝なくす二千石
愧爾東西南北人。   愧づ 爾が 東西南北の人
c-kouteki.html へのリンク
   邯鄲少年行
邯鄲城南遊侠子。   邯鄲城南の遊侠子
自矜生長邯鄲裏。   自から矜る 邯鄲の裏に生長すと
千場縦博家仍富。   千場 博を縦にして家仍富み
幾処報讐身不死。   幾処か讐を報じて 身 死せず
宅中歌笑日紛紛。   宅中の歌笑 日に紛紛
門外車馬如雲屯。   門外の車馬 雲の如く屯す
未知肝胆向誰是。   未だ知らず 肝胆 誰に向かってか是なるを
令人却憶平原君。   人をして却って平原君を憶はしむ
君不見今人交態薄。  君見ずや 今人交態の薄きを
黄金用尽還疎索。   黄金用い尽くせば還疎索
以茲感歎辞旧遊。   茲を以って感歎して 旧遊を辞し
更於時事無所求。   更に時事に於いて 求むる所無し
且與少年飲美酒。   且く少年と 美酒を飲み
往来射獵西山頭。   往来射獵せん 西山の頭。