呉錫麒 
呉錫麒(ご せきき)(1746〜1818)。字は聖徴。穀人と号す。浙江省銭塘県出身。詩風は漢魏六朝唐曹を溶解し、鋳型に流し込んだものだ張維屏の評である。呉錫麒は駢儷文体(典故・対句を使い美文体で飾り付ける文体)の名手としても知られる。洪亮吉・孔広森・袁枚らと併せ八家に数えられる。

     七夕雨
黄昏簾際送潺潺。   黄昏 簾際 潺潺たるを送る
入耳如聞響佩環。   耳に入る 聞くが如し 佩環の響くを
天上也吟神女賦。   天上 也た吟ず 神女の賦
催教暮雨到人間。   暮雨を催し教らしめ 人間に到る

解釈:牽牛織女が逢う瀬を楽しむ、七夕の黄昏時、軒端からサラサラと響く雨音が傳わってくる。それは佩玉を帯びた人の訪れ。佩環の揺れ動く響を聞くが如くっ耳を楽しませるようである。天上でも神女の賦が吟じられているであろう「巫山の神女は、旦には朝雨となり、暮れには行雨となる」というから」いま、神女を促して暮雨の姿にならせ、人間世界に来させているにちがいない。

    消寒絶句  (一)
礬頭山在屋頭堆。   礬頭の山は 屋頭に在って堆く
磬口花于水口開。   磬口の花は 水口に于いて開く
不遇故人誰共賞。   故人に遇はずんば 誰と共にか賞せん
打冰声裏一舟来。   打冰 声裏 一舟来たる

解釈;堆石のうずたかく積もった礬頭の山が、人家の傍らに聳え、磬の口のような蝋梅の花が小川の流れ込む水口に開いている。若し此処で出逢はなかったら、誰と共に賞翫しただろう、と、思っている。氷を切り取る音の響く中に、一隻の小舟が、こちらへ漕ぎ寄せて来るのが見えた。

    消寒絶句  (二)
湿絮濛々白戦天。   湿絮 濛々たり 白戦の天
忍寒不敢裹衾眠。   寒を忍んで 敢えて衾に裹まれて眠らず
破裘補綴十斤重。   破裘 補綴して 十斤重し
圧倒詩人山字肩。   圧倒す 詩人 山字の肩

解釈;昔、蘇東坡「白戦寸鉄を持するを許さじ」と禁体の詩で雪を詠んだ時の空模様になり、湿っぽい柳絮の雪がふりしきり、辺りは、ボンヤリと煙っている。折角の消寒会である、寒さなど我慢して、決して布団などにくるまって眠りなどはしない。それにしても、破れを繕った、継ぎ当てだらけの着物は重さ十斤もあろうか、と思えるほど、ズッシリと身を圧し、「山」の字のように、すくめている詩人の肩を押し潰しそうだ。

   石 九鼎:   (09/8/09)