鮑 照
鮑照。一名は昭、字は明遠。豪壮の気、勁拔の調を以て、顔・謝・二家の外に独立し、元嘉文学に異彩を放っている。鮑照の詩は体裁愼密で、顔・に比べれば辞句が精明で、謝・に比べれば気勢が生動していると謂われる。故に杜甫は「俊逸鮑参軍」と推称し俊逸を以て鮑照を認識している。

然し鮑照は一生不遇で非命の最期を遂げた薄倖の詩人であった。「河清頌」、「燕城賦」、「東武吟」、「苦熱行」等は最も出色の文字とされている、特に楽府に得意で「疑行路難」十八首は長短句錯綜の豪放の作品で、古人が推称措かざるものであると称される。

鮑照の名誉が顔・謝・二家の上に出ぬのは微官の為で、史官が彼の死後に傳を作らず、生死の年月も不明で一代の詩人も湮滅に帰せんとするの不幸の為と認識せざるを得ない。

此の時代の詩風を詳しく検討するに、斉・梁以下の綺靡麗縟と言う点までは進化していない。が然し辞句は一般に綺麗になり、建安の風骨は既に失はれ、修辞の形式技巧に因はれる弊風を現わした端緒であると言い得る。

     苦熱行 
赤阪横西阻    赤阪は 西阻に横たわり
火山赫南威    火山は 南威に赫なり
身熱頭且痛    身は熱く 頭は且つ痛む
鳥堕魂来帰    鳥は堕ちて 魂は来帰する
湯泉発雲潭    湯泉は 雲潭に発し
焦煙起石圻    焦煙は 石圻に起こる
日月有恆昏    日月は 恆に昏き有り
雨露未嘗晞    雨露は未だ嘗つて晞かず
丹蛇踰百尺    丹蛇は 百尺を踰え
玄峰盈十圍    玄峰は 十圍に盈つ
含沙射流影    沙を含んで 流影を射る
吹蠱痛行睴    吹蠱は 行睴を痛む
瘴気昼薫体    瘴気は昼に 体に薫し
茝露夜沾衣    茝露は夜に 衣を沾す
飢猨莫下食    飢猨も 下り食うこと莫れ
晨禽不敢飛    晨禽も 敢て飛ばず
毒涇尚多死    涇に毒し 尚を多く死する
渡瀘寧具腓    瀘を渡る 寧ぞ具に腓むならん
生躯蹈死地    生躯は 死地を蹈む
戈船栄既薄    戈船は栄既に薄く
伏波賞亦微    伏波も賞は亦微なり
財軽君尚惜    財の軽きを 君は尚を惜しむ
士重安可希    士の重ぜるは 安んぞ希う可けん


 
    結客少年場行    

   鮑 照
   結客少年場行