漢詩歳時記   10月

    辛夷塢     王 維 
木末芙蓉花。   木末 芙蓉の花
山中発紅萼。   山中 紅萼発く
澗戸寂無人。   澗戸 寂として人無く
紛々開且落。   紛紛として開き且つ落つ

   遊洞庭五首(一)   李白
洞庭湖西秋月輝。   洞庭湖西 秋月輝き
瀟湘江北早鴻飛。   瀟湘江北 早鴻飛ぶ
酔客満船歌白紵。   酔客 船に満ちて 白紵を歌う
不知霜露入秋衣。   知らず霜露の秋衣に入るを

   金陵晩眺    高蟾
曾伴浮雲帰晩色。   曾て浮雲の晩色に帰するに伴ない
猶陪落日泛秋声。   猶ほ落日の秋声を泛ぶに陪す
世間無限丹青手。   世間 限り無き丹青の手
一段傷心画不成。   一段の傷心 画くとも成らず

   山行    杜牧
遠上寒山石径斜。   遠く寒山に上れば 石径 斜めなり
白雲生処有人家。   白雲 生ずる処 人家あり
停車坐愛楓林晩。   車を停めて坐に愛す楓林の晩
霜葉紅於二月花。   霜葉は二月の花よりも紅なり

   山店    盧綸
登登山路何時尽。   登登として山路 何れの時にか尽きん
決決渓泉到処聞。   決決として渓泉 到る処に聞える
風動葉声山犬吠。   風 葉声を動かし 山犬吠ゆ
一家松火隔秋雲。   一家の松火 秋雲を隔つ

   遊嘉陵後渓    薛能
山屐経過満径蹤。   山屐 経過す満径の蹤
隔渓遥見夕陽舂。   渓を隔てて遥かに見る夕陽の舂
当時諸葛成何事。   当時 諸葛 何事かを成す
只合修身作臥龍。   只だ合に修身 臥龍と作るべきに

   秦淮    杜牧
烟籠寒水月籠沙。   烟は寒水を籠め 月は沙を籠む
夜泊秦淮近酒家。   夜 秦淮に泊して 酒家に近し
商女不知亡国恨。   商女は知らず 亡国の恨みを
隔江猶唱後庭花。   江を隔てて猶を唱う 後庭花

   将赴呉興登楽遊原    杜牧
   (将に呉興に赴かんとして楽遊原に登る)
清時有味是無能。   清時 味わい有るは 是れ無能
閑愛孤雲静愛僧。   閑に孤雲を愛し 静は僧を愛す
欲把一麾江海去。   一麾を把って江海に去らんと欲し
楽遊原上望昭陵。   楽遊原上 昭陵を望む

   秋色    呉融
染不成乾画未消。   染めて乾くを成さず 画いて未だ消せず
霏霏払払又迢迢。   霏霏たり 払払たり 又た迢迢たり
曾従建業城辺過。   曾て建業城辺より過れば
蔓草寒煙鎖六朝。   蔓草の寒煙 六朝を鎖す

   十日菊    鄭谷
節去蜂愁蝶不知。   節去り 蜂愁えて 蝶 知らず
暁庭還繞折残枝。   暁庭に還を折残せる枝を繞る
自縁今日人心別。   自ら今日の人心の別なるに縁る
未必秋香一夜衰。   未だ必ずしも秋香は一夜にして衰えず

   宿虚白堂    李郢
秋月斜明虚白堂。   秋月 斜めに明かなり 虚白堂
寒蛩喞喞樹蒼蒼。   寒蛩 喞喞たり 樹 蒼蒼たり
江風徹暁不得寐。   江風 暁に徹して 寐ることを得ず
二十五声秋点長。   二十五声 秋点 長し

   旅懐     杜荀鶴
月華星彩坐來収。   月華 星彩 坐來収まる
嶽色江声暗結愁。   嶽色 江声 暗に愁を結ぶ
半夜灯前十年事。   半夜 灯前 十年の事
一時和雨到心頭。   一時に雨に和して 心頭に到る

   楓橋夜泊     張継
月落烏啼霜満天。   月落ち 烏啼いて 霜 天に満つ
江楓漁火対愁眠。   江楓 漁火 愁眠に対す
姑蘇城外寒山寺。   姑蘇城外の 寒山寺
夜半鐘声到客船。   夜半の鐘声 客船に到る

   帰雁    銭起
瀟湘何事等閑回。   瀟湘 何事ぞ 等閑に回る
水碧沙明両岸苔。   水碧く 沙明らかに 両岸の苔
二十五絃弾夜月。   二十五絃 夜月に弾ずれば
不勝清怨却飛来。   清怨に勝えず 却って飛来す

   贈令孤曹士    韋応物
秋簷滴滴対床寝。   秋簷 滴滴として 床に対して寝ね
山路迢迢聯騎行。   山路 迢迢として 騎に聯ねて行く
到家倶及東籬菊。   家に到り 倶に 東籬の菊に及ぶ
何事先帰半日程。   何事ぞ先ず帰る 半日の程

   秋詞二首(一)    劉禹錫
自古逢秋悲寂寥。   古より秋に逢うて 寂寥を悲しむ
我言秋日勝春朝。   我は言う 秋日は春朝に勝れると
横空一鶴排雲上。   空に横たわる一鶴 雲を排して上る
便引詩情到碧霄。   便ち詩情を引いて 碧霄に到らしむ


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