寒 山
寒山と言う人物が実在したかどうかは、不明であるが、「寒山拾得詩」が中国宗元代の禅家や文化人の間に興った水墨画は多く禅ノ祖師像や禅機画、などが我が国に至っている、寒山と言う人物の名は、その分身である拾得とともい、古くから我が国の人々にも知られている。

寒山の伝説として最も早いものは、「寒山詩集」の闆丘胤の序であって、彼は実際に寒山と拾得と豊干を知り、彼らの不思議な言行を自ら見聞した人として、伝記ふうに記載し詩集を編んだとも述べている。寒山の詩集は総数314首、配列の順序もマチマチである。

   詩集 其の一
一人好頭肝。   一人 好き頭肝
六芸尽皆通。   六芸 尽とく皆な通ず
南見趁向北。   南のかた見て北に向かいて趁われ
西見趁向東。   西のかた見て東に向かいて趁われる
長漂如汎萍。   長しえに漂ようて汎萍の如く
不息似飛蓬。   息こわざること飛蓬に似たり
問是何等色。   問う是れ 何等の色ぞ
姓貧名曰窮。   姓は貧 名は窮と曰う

   詩集 其の二
笑我田舎児。   笑れを我う 田舎児
頭頬底繋渋。   頭頬 底ぞ繋渋なる
巾子未曾高。   巾子 未だ曾て高からず
腰帯長時急。   腰帯 長時に急なりと
非是不及時。   是れ時に及ばざるに非らず
無銭趁不及。   銭なくして趁い及ばざるのみ
浮図頂上立。   浮図 頂上に立たん

   詩集 其の三
何似長惆悵。   何を似てか長に惆悵する
人生似朝菌。   人生は朝菌に似たればなり
那堪数十年。   那んぞ堪えん数十年
新旧凋落尽。   新旧 凋落し尽くし
以此思自哀。   此れを以って思うて自から哀しむ
哀情不可忍。   哀情 忍ぶべからず
奈何当奈何。   奈何せん 当た奈何せん
脱体帰山隠。   脱体 山に帰って隠れん

   詩集 其の四
白雲高嵯峨。   白雲 高きこと嵯峨たり
緑水蕩潭波。   緑水 蕩潭波たり
此処聞漁父。   此の処に 漁父の
時時鼓棹歌。   時時に棹を鼓して歌うを聞く
声声不可聴。   声声 聴くべからず
令我愁思多。   我をして愁思 多からしむ
誰謂雀無角。   誰か謂う 雀に角なしと
其如穿屋何。   其れ屋を穿つを何如せん

   詩集 其の五
可笑寒山道。   笑うべし 寒山の道
而無車馬跡。   而も車馬の跡なし
聯谿難記曲。   聯谿 曲を記し難く
畳嶂不知重。   畳嶂 重きを知らず
泣露千般草。   露に泣く千般の草
吟風一様松。   風に吟ずる一様の松
此時迷径処。   此の時 径に迷う処
形問影何従。   形は問う 影は何れ従りかすると
  
   詩集 其の六
人生不満百。   人生 百に満たざるに
常懐千載憂。   常に千載の憂いを懐く
自身病始可。   自身 病い始めて可えしに
又為子孫愁。   又た子孫の為に愁う
下視禾根下。   下は禾根の下を視
上看桑樹頭。   上は桑樹の頭を看る
秤鎚落東海。   秤鎚 東海に落つ
到底始知休。   底に到って始めて休むことを知る