金冬心詩選

    寄呉丈
北郭依喬木。    北郭 喬木に依る
青山属隠君。    青山 隠君に属す
心知白雲妙。    心は知る白雲の妙なることを
書愛衆香薫。    書は愛す衆香の薫ずることを
草閣編遺集。    草閣に遺集を編み
滮湖釆旧聞。    滮湖に旧聞を釆る
猶誇健如犢。    猶を健なること犢の如くなるを誇る
課子事耕耘。    子に課して耕耘を事とする

詩語解説
呉丈:年長または目上の知人に対する敬称。
滮湖:浙江省嘉興県の東南にある湖。
釆旧聞:この地方に伝わる郷土資料を収集する。


        宿焦山
縹渺松寥山。    縹渺たり松寥山
積翠下無路。    積翠 下に路なし
風頼鐘微茫。    風頼 鐘 微茫たり
鶴跡雲散聚。    鶴跡 雲は散聚す
如聞定中僧。    定中の僧を聞くが如し
牽月濯巾餅。    月を牽いて巾餅を濯えば
江光漾高樹。    江光は漾高樹に漾めく

詩語解説
焦山:江蘇省鎮江市の北、長江の中に屹立する山。(焦山を参照されたい)


    秋 来
紈扇生衣捐已無。    紈扇 衣を生じ 捐てて已に無し
掩書不読閉聖盧。    書を掩って読まず 聖盧を閉ざす
故人笑比中庭樹。    故人笑って中庭の樹に比う
一日秋風一日疎。    一日秋風 一日疎らなり

詩語解説
聖盧:書斎


    江上歳暮雑詩  (その一) 雪
有物爬沙行。   物有り 沙を 爬って行く
合眼聴怪絶。   眼を合じて 聴くに怪絶
索策復苴苴。   索策 復た苴苴たり
天寒一夜雪。   天寒一夜の雪
清暁生萬潔。   清暁 萬潔を生じ
牀琴凍折絃。   牀琴 凍って絃を折り
巷門荒脱闡。   巷門 荒れて闡を脱す
主人病耽愁。   主人 病んで愁いに耽む
渋縮中陰閉。   渋縮して中陰に閉ざさる
身比枯木僵。   身は枯木の僵れるに比し
心如宿火熱。   心は宿火の熱するが如し
坐失江上山。   坐して江上の山を失う
微范弁明滅。   微范 明滅を弁ず
新添空澗中。   新たに添える 空澗の中
泉声日嗚咽。   泉声の日に嗚咽するを


    感春口号
春光門外半驚過。    春光門外 半ば驚いて過ぐ
杏懕桃緋可奈何。    杏懕 桃緋 奈何すべき
莫怪撩衣嬾軽出。    怪しむ莫れ 衣を撩げて軽く出ずるに嬾きを
萬山荊棘較花多。    萬山の荊棘 花に較して多し

   08/03/09      石 九鼎