| ★磨剣室詩詞集（上）★ 近代中国詩家絶句選 （２） 柳亜子 柳亜子。（1887〜1958）初名慰高、字安如。人権。後に棄疾字亜子。と改名。江蘇省呉江県の人1903年上海国学社に入り、章太炎、鄒容等と共に清朝専制統治に反対。1906年、孫中山が指導的役割をしていた組織の同盟会に参加。民主革命活動に積極的に従事する。 柳亜子の詩は律詩に長じ剛健雄荘、詩集は五千首余、特に「贈答、返礼」に類する詩詞が多い。七言絶句では起句を「踏み落とし」の句が多い。由来、我が国では格律を厳しく守り、「前対格のみ踏み落とし」が正常とされている。柳亜子が先鞭を就けたものか、中国近代詩にはこの例が多い。 有懐章太炎鄒容両先生中獄 （一） 祖国沈淪三百載。 祖国 沈淪する三百載 忍看民族日（イ＋比）離。 看るに忍んや民族の 日に（イ＋比）離するを 悲歌陀叱風雲気。 悲歌 陀叱する風雲の気 此是中原瑪志尼。 此は是れ中原の 瑪志尼 瑪志尼⇒イタリア革命家マッチーニ 有懐章太炎鄒容両先生中獄 （二） 泣麟悲鳳佯狂客。 泣麟 悲鳳 狂客を佯わる 搏虎屠龍革命軍。 虎を搏ち龍を屠す革命軍 大好頭顱抛不得。 大好 頭顱 抛つこと得ず 神州残局豈忘君。 神州の残局 豈に君を忘れぬ 大行⇒立派な行為。大きな事業。 除夕雑感 （一） 過江名士新亭泪。 江を過ぎる名士 新亭の泪 抱膝詞人梁父吟。 抱膝の詞人 梁父吟 流水年華今去也。 流水 年華 今去る也 沙汰尚有歳寒心。 沙汰たり尚ほ歳寒の心有り 除夕雑感 （二） 十年悔学雕虫技。 十年 学ぶを悔む雕虫の技 一様傷心瑪志尼。 一様に傷心す瑪志尼 無頼睡獅醒未得。 無頼 獅を睡らし醒めて未まだ得ず 中原望断漢家旗。 中原 望断す漢家の旗 贈林力山 浮萍大海情何限。 浮萍 大海 情何んぞ限らん 荊棘銅駝恨不平。 荊棘の銅駝 恨み平ならず 同是天涯淪落客。 同じく是れ天涯 淪落の客 残山剰水又逢卿。 残山 剰水 又た卿に逢う 夜坐漫感 奇愁浩蕩有誰知。 奇愁 浩蕩 誰か知る有り 侠骨柔腸痴復痴。 侠骨 柔腸 痴 復た痴なり 別有感情忘不得。 別に感情の忘れ得ず有り 挑燈自写定庵詩。 燈を挑げて自ら写す定庵の詩 読季平見懐之作、即次其韻 残山剰水情難遺。 残山 剰水 情 遺わり難し 飛絮浮萍迹総塵。 飛絮 浮萍 迹 総て塵なり 多謝劉三今義士。 多謝す劉三 今は義士 怜儂憔悴不如人。 儂が憔悴を怜れむは人にしかず 説夢二首 （一） 美人如玉剣如虹。 美人 玉の如く 剣は虹の如く 并轡中原殺賊雄。 轡を并べる中原 殺賊の雄 只恨晨鶏辛苦喚。 只だ恨む晨鶏の辛苦に喚ぶを 不教杯酒飲黄龍。 杯酒をして黄龍に飲ましめず 截句和天梅次韻 我亦飄零二十年。 我れ亦た飄零 二十年 幾回掻首問蒼天。 幾回か掻首 蒼天に問う 塵球弾指成灰燼。 塵球 弾指 灰燼と成る 何処人生不可怜。 何処 人生 怜れむべからず 中秋雑事詩 （一） 月光如水又中秋。 月光 水の如く 又た中秋 只照歓娯不照愁。 只だ歓娯を照らし 愁を照らさず 苦憶南朝王相国。 苦憶 南朝 王相国 一生幾見汝当頭。 一生 幾くたびか汝が当頭に見る 中秋雑事詩 （二） 長天吹断美人虹。 長天 吹断す美人の虹 金粉南朝色相空。 金粉 南朝 色相 空し 欲発狂言還自笑。 狂言を発し還た自ら笑わんと欲す 掉頭行過画楼東。 掉頭 行き過ぎる画楼の東 有所感 已悔狂名動一時。 已に狂名を悔い 一時に動く 劉郎才気竟如斯。 劉郎が才気 竟 斯の如し 信陵醇酒年来意。 信陵が醇酒 年来の意 尚有南山種豆詩。 尚ほ南山 豆を種る詩あり 聞陶公出獄、喜極不能成寝、枕上口占四絶（一） 一紙書傳喜欲狂。 一紙の書傳 喜び狂わんと欲す 翻教涕泪湿衣裳。 翻って涕泪をして衣裳を湿らさしむ 烏頭馬角今生事。 烏頭 馬角 今生の事 到此猶疑夢一場。 此に到り猶ほ疑う 夢一場 聞陶公出獄、喜極不能成寝、枕上口占四絶（二） 昨夜思君愁未寝。 昨夜 君を思い愁い未だ寝ねず 今宵歓喜不成眠。 今宵 歓喜 眠を成さず 何時却剪西窗燭。 何時か却つて西窗の燭を剪って 重話人間一段縁。 重ねて話らん人間 一段の縁 急雨 急雨如傾三峡水。 急雨 三峡の水を傾けるが如く 宵來魂夢也難安。 宵來 魂夢 也た安んじ難し 人間尽有傷心事。 人間 尽く有り 傷心の事 辛苦痴天哭不干。 辛苦 天に痴し哭して干かず 海上送何震生、姚石子帰雲間 草草光陰又離別。 草草 光陰 又た離別 送君帽影更鞭叢。 君を送る帽影 更に鞭叢 蕭疏秋柳渾如夢。 蕭疏たり秋柳 渾て夢の如く 細雨斜風帰去時。 細雨 斜風 帰去の時 有感 破絮蒙頭過此生。 破絮 蒙頭 此の生を過ぎる 忍看多難獨呑声。 忍んで多難の獨り声を呑むを看る 五陵遊侠成何事。 五陵の遊侠 何事を成す 悔被人間識姓名。 悔む人間に被って姓名を識る 書剣華所贈小影 絶代銷魂兪剣華。 絶代 銷魂 兪剣華 黄塵席帽走天涯。 黄塵 席帽 天涯を走る 飄零一樹霊和柳。 飄零たる一樹 霊は柳に和す 未減潘郎貌似花。 未だ減ぜず潘郎が貌の花に似たるを 夜雨不眠 孤負芳衾一夜眠。 芳衾に孤負す一夜の眠り 朝來明鏡損華年。 朝來の明鏡 華年を損なう 聴風聴雨難成夢。 風を聴き雨を聴き夢成り難し 如此春宵劇可怜。 此くの如き春宵 劇だ怜むべし 題天梅孝陵瓦当硯 玉魚金碗太凄凉。 玉魚 金碗 太だ凄凉 坏土長陵事可傷。 坏土の長陵 事 傷むべし 記取他年書露布。 記取す他年 書 布に露わし 功成長揖謝高皇。 功成り長揖し 高皇に謝す 長揖⇒略式の敬礼。 白門悲秋集題詞、為周実丹作 （一） 天教奇気叱鸞龍。 天 奇気をして鸞龍を叱せしむる 六代江山属寓公。 六代の江山 寓公に属す 別有傷心懐抱悪。 別に有り傷心の懐抱の悪 秋來一樹海棠紅。 秋來 一樹 海棠 紅いなり 懐抱⇒胸中に抱いている事がら。 傷春 寵龍嬌花苦未真。 寵龍の嬌花 未だ真ならざるに苦しむ 九風十雨誤芳辰。 九風 十雨 芳辰を誤る 等閑莫洒中原泪。 等閑 中原の泪を洒ぐ莫れ 便解傷春已可人。 便ち傷春を解すは 已に可人 等閑⇒物事に拘らない。 可人⇒よい人物。とりえのある人物。 桃葉渡酒家題壁 桃葉芳名尚未刪。 桃葉の芳名 尚ほ未だ刪らず 秦淮流水自潺潺。 秦淮の流水 自ら潺潺たり 我來不洒新亭泪。 我れ來って洒がず 新亭の泪 只哭淮南周実丹。 只だ哭す淮南 周実の丹 題范茂芝、尋詩読画図 大陸龍蛇起蟄雷。 大陸の龍蛇 蟄雷を起こす （車＋罔）川巻里一徘徊 （車＋罔）川の巻里 一に徘徊す 我儂若写閑図画。 我が儂 若し閑に図画を写けば 十五垂髫捧剣來。 十五の垂髫 剣を捧げ來る 席上酔吟 花底妝成張麗華。 花底 妝成る張麗華 相逢淪落各天涯。 相逢て淪落 各々天涯 婦人醇酒尋常事。 婦人 醇酒 尋常の事 誰把鈞天酔趙家。 誰か鈞天を把て趙家に酔う 鈞天⇒九天の一つ。天の中央。 送曼殊東渡 紅燈緑酒幾旬酔。 紅燈 緑酒 幾旬酔う 海水天風萬里行。 海水 天風 萬里の行 正是陽春旧三月。 正に是れ陽春 旧三月 桜花叢里訪調筝。 桜花 叢里 調筝を訪う 雪后遊瑚上諸山 六橋垂柳未成絲。 六橋の垂柳 未だ絲と成らず 鏡里偏饒雪後姿。 鏡里 偏に饒か雪後の姿 踏破瓊瑶天下管。 踏破す瓊瑶 天下の管 萬山無語我來時。 萬山 語 無く 我れ來る時 有感示子美 結習餘痴愧未望。 習を結び痴を餘す 愧じて未だ望まず 尽多哀楽付詞章。 尽とく哀楽多く 詞章を付す 曉風残月休回首。 曉風 残月 首を回らすを休め 錯被人呼柳七郎。 錯まりて人に柳七郎と呼ばれる 滄浪亭口栓占示子美 只惜登臨易夕陽。 只だ登臨 夕陽に易くを惜しむ 一池流水自滄浪。 一池の流水 自ら滄浪 濯纓濯足関清濁。 纓を濯い 足を濯い 清濁に関する 此意還須仔細商。 此の意 還た須く仔細に商うべし 消寒一絶 袁安高臥太寒酸。 袁安 高臥 太はだ寒酸 党尉羊膏未尽歓。 党尉の羊膏 未だ歓を尽さず 願得健児三百萬。 願くは健児 三百萬を得て 咸陽一炬作消寒。 咸陽 一炬 消寒と作さん 中秋泛燈詞、同玄穆作 萬花叢里酒盈卮。 萬花 叢里 酒 卮に盈つ 強遣牢愁借綺思。 強いて牢愁を遣はし綺思に借りる 収拾銅琶鉄板曲。 銅琶 鉄板の曲を収拾して 紅牙低按泛燈詞。 紅牙 低く按えて 燈詞を泛べる 酒社十二集、病足未赴写示玄穆 爛酔当時旧酒楼。 爛酔す 当時 旧酒楼 賦詩横槊幾曽休。 詩を賦し槊を横たえ幾たびか曽つて休む 如何一病西風里。 如何ぞ一病 西風の里 涕泪相看似楚囚。 涕泪 相い看る 楚囚に似たるを [ 目次 ] 柳亜子 ２ Copyright (C) 1999-2004 石九鼎の漢詩舘 thhp://www.ccv.ne.jp/home/tohou/kise2.htm このページのリンクは自由です。無断コピーは禁止します |