古詩十九  其の三首
      青青陵上栢    青青たる陵上の栢
     磊磊礀中石    磊磊たる礀中の石
     人生大地間    人の大地の間に生る
     忽如遠行客    忽ち遠行の客の如し
     斗酒相娯楽    斗酒 相い娯楽しみて
     聊厚不為薄    聊く厚しとして 薄しと為さざらn
     駆車策駑馬    車を駆て 駑馬に策うちて
     遊戯宛與洛    宛と洛(與)に遊戯すれば
     洛中何欝欝    洛中 何ぞ欝欝として
     冠帯自相索    冠帯 自ら相い索む
     長衢羅夾巷    長衢 夾巷に羅(つら)なり
     王侯多第宅    王侯 第宅 多し
     両宮遥相望    両宮 遥かに相い望む
     双闕百余尺    双闕 百余尺あり
     極宴娯心意    宴を極めて 心意を娯ましぶれば
     戚戚何所迫    戚戚として 何の迫る所ぞ


此の詩は①世の中は面白く暮らすのが良い,極めて享楽的な詩であると解釈するのもあるが、②人生は現れてすぐ見えなくなる旅人のようなものと感じて悲しみを抱きながら、それを忘れる為のわびしい酒盛りをする。山間から都会の人間の現実世界に身を駆って、享楽と野心の中に憂いを消そうとする。最後の一句中の「戚戚」の言葉の底。人生の憂いこそ、この詩の基調である。
語釈
磊磊==石のごろごろしたさま
礀==石間の水. 
聊厚不為薄==酒を飲んで楽しみ,多少厚くても厭わず,又,薄しともしない,転じて,しばらく,之は結構なご馳走だと思い,つまらぬものと思うまい.
駑馬==足の鈍い馬では,あるがの意.
宛與洛==河南省の南陽の宛県と洛陽
欝==繁盛の状態
冠帯==衣冠束帯,即ち貴族官僚人
自相索==相追い求める,訪問しあう,
長衢==長い大通
羅==羅列,連なり並ぶ
第宅==邸宅
両宮==洛陽にある
双闕==宮門の左右にある高い楼閣
戚戚==憂い,悲しみ
何所迫==どうして身に迫り近寄ることができようか

    09/21/06     石 九鼎