前原一誠 前原一誠。萩乱の首領。長州藩士。初め彦太郎と称す、性剛強漢学に通じ擊剣に達す。明治元年戌辰の役に藩命を奉じ東北に出張、大いに功有り、賞典六百石を賜り越後府の判事と為る。 明治2年7月参議に任じ12月兵部大輔に転じる。3年9月大臣と議論合わずして職を罷め、故山に帰る。佐賀の乱に県令中野悟一の依頼を受け書を県下の士族に下し諭して動揺すること勿らしめる。 其の書たび世上に傳揚すると名声頓に四方に聞こえ、薩の西郷、長の前原を以って相比するに到る。 士人来訪する者、陸続絶えず、一誠、閑居して一日維新以来数年の経歴を思い常に不平を抱き快快として楽しまず、同9年熊本の神風連及び東京長岡久茂と謀を通じ横山俊彦、奥平謙輔等数百余名を集め君側の奸を除くを以って名とし遂に兵を起こし官軍に抗す。 辞 世 我今為国死。 我れ今 国の為に死す 死不負君恩。 死すとも 君恩に負むかず 人事有通塞。 人事 通塞あり 乾坤吊我魂。 乾坤 我が魂を吊す ※自注=「吊」は「弔う」に通ず。 失 題 水濁無由濯我纓。 水濁 由し無し 我が纓を濯う 行吟澤畔歎斯生。 澤畔を行吟 斯の生を歎ず 従今脱却人間事。 従え今 人間事を 脱却するも 売剣買牛自在耕。 剣を売り牛を買い 自在に耕さん 又 心死人間萬事安。 心死 人間 萬事安んず 出門世路太艱難。 出門 世路 太なだ艱難 従今黙々林泉下。 従とえ今 黙々 林泉の下 髙臥清風保衰残。 髙臥 清風 衰残を保なわん 又 汗馬鉄衣過一春。 汗馬 鉄衣 一春を過ぎる 帰来欲脱却風塵。 帰来 風塵を脱却せんと欲す 一場残酔曲肱睡。 一場 残酔 肱を曲げて睡る 不夢周公夢美人。 周公を夢みず 美人を夢みん 戌辰作 干戈未定事如麻。 干戈 未だ定まらず 事 麻の如し 身委艱難不思家。 身は艱難に委せ 家を思はず 黙斬姦臣数暦日。 黙して姦臣を斬り 暦日を数えん 十年永負故山花。 十年永く負く 故山の花 09/04/01 石 九鼎 |