成島柳北 成島柳北。名は弘,字は保民。江戸の人、幕府に仕え騎兵奉行、外国奉行、会計副総裁を歴任する王政維新の後、学舎を浅草本願寺に設けて子弟を教育し、朝野新聞社長となり、花月新誌を発行すう。明治１７年没。享年４８． 　　　　星嘉坡 幾個蛮奴聚港頭。　　　幾個の蛮奴が　港頭に聚まる 排陳土産語啾啾。　　　土産を排陳し　語　啾啾　 巻毛黒面脚皆赤。　　　巻毛　黒面　脚　皆な赤く 笑殺売猴人似猴。　　　笑殺す猴を売る人　猴に似たるを 　　　塞　昆 夜熱侵人夢易醒。　　　夜熱　人を侵して夢　醒め易し 白沙青草満前汀。　　　白沙青草　前汀に満つ 故国応是霜降節。　　　故国　応に是れ　霜降の節なるべし 驚看蛮蛍大似星。　　　驚き看る蛮蛍　大　星に似たるを 　　　　次恒堂松平君見寄之韻 縦然世路険於山。　　　縦然　世路　山よりも険に 不学児曹説苦難。　　　学なばず児曹が　苦難を説くを 詩癖自知真佛果。　　　詩癖　自ら知る　真佛果 酔郷便是小仙寰。　　　酔郷　便ち是れ小仙寰 梅花孤帚春堪弔。　　　梅花　孤帚　春　弔するに堪へ 細雨幽扁昼亦関。　　　細雨幽扁　昼亦関す 十畦園林熱塵遠。　　　十畦の園林　熱塵　遠く 苕渓何逐一簑閑。　　　苕渓　何ぞ逐はん　一簑の閑 　　　　　　秋　懐 北窓高枕誦陶詩。　　　北窓高枕　陶詩を誦す 大馬長槍彼一時。　　　大馬長槍　彼一時 病客身辺秋到早。　　　病客　身辺　秋到ること早し 醒人宅里月来遅。　　　醒人　宅里　月来ること遅し 少年感慨老応悔。　　　少年の感慨　老いて応に悔ゆべし 浮世交情窮始知。　　　浮世の交情　窮して始めて知る 忘却従前栄辱事。　　　忘却す従前　栄辱の事 琴書消日不囲棋。　　　琴書　日を消して　棋を囲まず 　　　　　　丙子歳晩感慨 隙駒躯我疾於棱。　　　隙駒　我を躯って　棱よりも疾し 四十星霜容易過。　　　四十星霜　容易に過ぐ 文苑偏憐才子句。　　　文苑　偏へに憐む　才子の句 教坊徒聴美人歌。　　　教坊　徒らに聴く　美人の歌 青雲黄壞旧知少。　　　青雲黄壞　旧知　少に 緑酒紅灯新感多。　　　緑酒紅灯　新感多し 好是寒梅花上月。　　　好し是れ寒梅　花上の月 稜稜風骨奈君何。　　　稜稜たる風骨　君を奈何せん 　　　　　　09/04/05 　　　　石　九鼎