左思 詠史詩八首(史を詠ず八首)

 史を詠ず八首の一

弱冠弄柔翰    弱冠にして柔翰を弄す
卓犖観群書    卓犖 群書を観る
著論準過秦    論を著して 過秦に準え
作賦擬子虚    賦を作りて 子虚に擬し
辺城苦鳴鏑    辺城は 鳴鏑に苦しむ
羽檄飛京都    羽檄は 京都に飛ぶ
雖非甲冑士    甲冑の士と 非ずと雖ども
疇昔覧穣苴    疇昔は 穣苴を覧る
長嘯激清風    長嘯し 清風に激す
志若無東呉    志は 東呉に無きが若し
鉛刀貴一割    鉛刀には 一割を貴ぶ
夢想騁良図    夢に想う 良図を騁んことを
左眄澄江湘    左眄して 江湘を澄まし
右眄定羌胡    右眄して 羌胡を定め
功成不受爵    功成りて 爵を受けず
長揖帰田廬    長揖して 田廬に帰らん

(詩語)
弱冠=二十歳になる事を言う。(礼記の曲礼篇に『人生生まれて二十なるを弱冠と有り)
卓犖=特達。非常に勝れていること。
準=手本としてまねる。
擬=手本としてまねる。
鏑=かぶら矢。鳴鏑=(かぶら矢は空を飛ぶ時、響きを発するので言う。)
羽檄=至急な事柄を示す為に鳥の羽につけた書札。手紙の類。
疇昔=前日。曾って。
穣苴=田完の子孫、斉の景公に仕えて将軍となった。勝れた兵法家。
鉛刀=東観漢記。(鉛刀 一割の用に倣はん)。呂延済は「なまり製の刀は、(刃が弱いので)只だ一たび切り就けば、再度、用ふるべからず」と言う。一度しか使えないから、その一度が貴いのである。
騁=施す。
爵=五等の爵の意。


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(訳意)
我は若い頃から筆をとって文をつくり、志を高くもち、ひろく書物を読んだ。論文を書いて賈誼の過秦論になぞらえ、賦を作り司馬相如の子虚賦に擬すことに心がけた。
時には辺地の城げは、かbら矢が鳴り響き、民衆は戦乱に苦しみ、徴兵の令状は京都に飛ぶ。我は鎧、甲を身につける武人では無いが、かねて穣苴の兵法書を読み心得ている。
清風にのぞんで長嘯して激しくうごかし、心中では東呉(孫氏)を、ものともしない気が起こる。(志は高く気は勇む。)
鉛刀は一度だけの使用が貴ばれるから、私も立派な謀を実行したいと夢にすら想う。即ち、左を観ては、江水と湘水とを清くし、右を観ては西戎の羌胡を平定したい。
功業の成った上は恩賞の爵位を受ける事など無く、会釈して故郷に帰り、悠々自適したい。

                           
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