先哲者の漢詩>34>久保天随

久保天随
 (1875−1934)
東京下谷で生れ、父譲次に従って高知、横浜で育つ。名は得ニ・号を天随・青琴。東大漢学科を卒業後・著作を業とした。評論。随筆・紀行文・漢籍の注釈に健筆をふるった。
後、宮内省図書寮編修官。台湾帝国大学教授を歴任する。著書170余種。250余冊に上る。晩年は詩人として名声高く、当時、「青崖・裳川をおいては天随を第一とする」と言はれた。
詩風は清の呉梅村を得て情韻秀で、又、七言古詩に長じた。近年、日本図書から天随訳著の李白全詩集、上・中・下。高青丘全詩集、4巻。は復刻本とは言え、我が国、初めての全集として漢詩研究者に共感を以って向かえられた。
詩鈔に秋碧吟盧詩鈔14巻。参考文献: 日本漢詩。明治大正名詩選。日本漢詩文集。

            那須野
   浮雲直北接三陸。   浮雲 直に北三陸に接し
   乱水正南趨両毛。   乱水 正に南 両毛に趨る
   何草不黄風浩浩。   何の草か 黄ならざらん 風浩浩
   平原落日馬嘶高。   平原 落日 馬き嘶高し
                          
☆前対格

          南都冶春絶句
   依然六代旧規模。    依然 六代の 旧規模
   随所鶯花入画図。    随所 鶯花 画図に入る
   節過清明風日好。    節は清明を過ぎて 風日好し
   山温水軟勝西都。    山温 水軟 西都に勝る

          月夜溯刀江
   細草微風両岸秋。    細草 微風 両岸の秋 
   三更扶酔上帰舟。    三更 酔を扶けて 帰舟に上る
   渺茫江水和煙白。    渺茫 江水 煙に和して白く
   舵尾金波砕月流。    舵尾の金波 月に砕けて流る

          大石祠
   廿載重過義士郷。    廿載 重ねて過ぐ 義士の郷
   遺墟今日儼祠堂。    遺墟 今日 祠堂儼たり
   故国神游合無憾。    故国 神游 合に憾無かるべし
   一邱花木帯輝光。    一邱の花木 輝光を帯ぶ

          耶馬渓
   秋風度水韻於簫。    秋風 水を度つて 簫よりも韻く
   目断峡天秋色遥。    目断す峡天 秋色の遥かなるを
   斜照乱山高下路。    斜照 乱山 高下の路
   一肩黄葉有帰樵。    一肩の黄葉 帰樵有り

          耶馬渓 (二)
   高底錯出幾千峰。    高底 錯出す 幾千峰
   雲木蒼蒼晩靄濃。    雲木 蒼蒼 晩靄濃かなり
   仰見奇巌聳天半。    仰ぎ見る 奇巌の 天半に聳えるを
   断猿声在倒生松。    断猿の声は 倒生の松に在り

         題梅花山館読書図。 徐貫恂嘱
   数枝疎影妙描春。    数枝の疎影 春を描くに妙なり
   隠几心於幽処真。    几に隠れば 心 幽処よりも真なり
   好向花前連夜読。    好し花前に向って 連夜読めば
   古人糟粕有餘醇。    古人の糟粕 餘醇有り

         擬元人十台懐古詩                 
   可憐君亦一功狗。    憐む可し君亦 一功狗
   却憶登壇意気揚。    却て憶う 登壇 意気揚りしを
   割拠三分心不忍。    割拠 三分 心 忍びず
   風雲百戦勢難當。    風雲 百戦 勢當り難し
   無端媚漢殺亡将。    端無く漢に媚びて 亡将を殺し
   何事平斎乞假王。    何事ぞ 斎を平らげて 假王を乞う
   鐘室銜冤魂魄結。    鐘室 冤を銜んで 魂魄結ぶ
   故臺落日笛声涼。    故臺の落日 笛声涼し
                     
☆韓侯臺を詠ずる