詩体・南北朝詩体    魏周に通じて言う,斉梁体と一なり。

 南北朝体は宋の武帝の即位から隋の文帝が陳を滅ぼす百七十間,中国は分かれて南北の二大国となった。此の間を南北朝時代と言っている。厳滄浪は南北朝体を魏周に通じて言う,斉梁体と一なりと自ら註釈いているが,魏周の文学が加わってくると斉梁体と同一だ。と言う説には異議有り。何故なら,南朝と北朝の文学の思潮は根本的に異っている,詩風も決して同一視する事が出来ないからである。 

南北文学の大勢は北史文苑傳の序に唐の李延壽が以下のように述べている。 「永明天監の際,太和天保の間,洛陽江左,文雅尤も盛んなり。彼此の好尚,雅(つねに)異同あり。江左は宮商発越,淸綺を貴び,河朔は詞義貞剛,気質を重んず。気質は卽ち理はその詞に勝り,淸綺は卽ち文は其の意に過ぎる。故に理深きものは時用に便にして,文華なるものは詠歌に宜し。此れ其の南北詞人得失の大較なり」と言う。

実によく其の南北文学の特質を説明している,之は地理上から説を立てたものである。卽ち南方は文史風の純文学的傾向が有るに対し,北方は儒者流の道徳的文学の気習を脱せない。其の文と質とに於いて南北に非常な差異があることは明白である。

 故に南北朝体は斉梁体と一なるとの滄浪の注釈には賛同しかねる。要は斉梁体の南北の詩体に対して北朝の詩体と見做した方が適切である。故に私見として北朝の文学の一端を簡単に著述する。 北朝の詩人では北魏では常景,胡太后,北斉に刑邵,祖珽、鄭公超,顔之推,斛律金,蕭愨,北周には庾信,王褒等があるが,北方では何と言っても名高いのは北周の庾信が首領である。

北周はもとより南朝の風を重んじ,南朝の文学者で北に使いしたものは之を引き留め大いに優遇した。瘦信も父の肩吾は梁に仕えた南朝の人である.故に,無論,瘦信も南朝の梁に仕えていて学士ちなり徐陵と併称せらていた。

故に瘦信の文章は多少の気力は有るが,南朝綺艶の風を免れない。然し,古風を既滅の余に維持し,字句作ること清新で,故事を使うことの渾成であることは此の人長所で名を斉しくした徐陵も遠く及ばない。又,詩品は何遜に似ているが何遜も亦,跡に瞳若たるものがある。

或いは,曾って瘦信を譏って軽険,麗淫で詞賦の罪人だなどと言う説まで有ったが,彼の詩体は北周を風靡し,川の流れが滔々と海に朝するようなもので,其の勢いはどうすることも出来なかった。

 梁が滅びてから徐陵は南朝に留まって陳の四帝に歴任し,今日では陳の人のように思われているが,庾信は梁が滅びると陳を去って東魏,西魏,北周の三代を歴任した。後ち,陳と周とが好を通ずるに及んで,南北流寓の士は各々その郷里に帰ったが,周の君主は獨り彼の江南に帰ることを許さなかった。

瘦信はその時 「哀江南賦」を賦し,懷郷の情を流露し悲痛の意を述べている。これが更に彼の文名を高めた所以である。
 北周には彼のほか,王褒,字は子淵がいるが,瘦信には及ばない。

温子昇
は字を鵬挙と言う。北魏の太原の人。済南に住んでいた。始め広陽王深の賤客と為って馬坊にいて,諸奴の子に書を教えた。熙平の初めに高弟を射策して御史に補された。王深が東北道の行臺になると,請うて郎中と為り,軍国の文翰は皆なかれの手に出た。

孝莊が位に就くと徴されて南主客郎中に拝命され,散騎常侍に累遷した。斉の文襄が引いて諮議参軍と為した。荀済等が乱を為すに及んで,文襄は子昇がその謀を知ると疑った。そこで晉陽の獄に下し饑えさせたので,彼は襦袢で咽喉を絞めて死んだ。

子昇は文行忠信の士であるが,その文は寧ろ淸婉である。彼は青年時代に已に温生は大才子だ,との評判であった。が,北方人は質実であるから,天才を負んで徳行を忘れるような軽薄な人物では無かった。梁の武帝が嘗て彼の文名を聞き,彼の文章を写させて江南に伝え曹植,陸機の再生であると激賞した程である。然し彼の長所は韻文では無く寧ろ散文であった。


胡太后は北魏の安定臨淄の生まれで美人であった。魏の七代の君主宣武帝の初めに掖庭(キョウチョウ)に入って承華世婦と為って孝明帝を生んだ。孝明帝が位を嗣ぐと,尊んで皇太子と称し奉った。宣武帝が崩御すると孝明帝が立ったが,僅か六歳の幼少の主である故に,胡太后が廉を垂れて政を聴き訓令は総べて太后の手から出た。胡太后の淫蕩の爲に,寵愛している者が多く事を用いて,綱紀は弛緩し,盗賊は各地に蜂起し,国境は日に減縮した。



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