白居易墓陵
白居易の墓陵は龍門の香山(東山)の琵琶峰にある。
中唐の大詩人である白居易(772−846)は字を楽天。日本文学に多大な影響を与えた。特に、白居易の詩は平易を特徴とした。晩年は香山に隠棲し、香山居士と号した。白居易は龍門の風光を愛し、洛陽に住んだ期間が長く併せて十八年に及んでいる。彼はその閨Aよく此に来て、香山の僧たちとも良く付き合い香山寺の経蔵を増修改飾したことも記録にも残っている。

 五年秋。病後独宿香山寺。三絶の一   (開成五年秋、病後に香山寺に宿した詩)
経年不到龍門寺    久しぶりで香山寺に来て宿した
今夜何人知我情    今夜の我が情は、到底他人には忖度をいれない所である
還向暢師房里宿    また暢師の僧房に有り
新秋月色旧灘声    新秋の月色を望み、旧灘の声を聞けば感興が湧く

 五年秋。病後独宿香山寺。三絶の二
石盆泉畔石楼頭     石盆泉の畔や石楼の頭はこと更に愛好している
十二年來晝夜游     十二年來 晝も夜の良く来て遊んだ所である
更過今年年七十     更に今年を過ぎれば私も七十になる
假如無病亦宜休     たとい病なくとも当然官を退くべきである

又、白居易は文学面で新楽府運動を提唱し詩は自然流暢で暗黒政治を攻撃し人民の苦しみをうたった詩が多く、没後、此の地に葬られた。

琵琶峰は琵琶に似た形で麓からはかなり急な路坂で途中、点点と露店らしき店があり休息しながら登坂して行く。墓陵前には『唐少傳白公之墓』高さ3mもありそうな碑が建っていた。峰頂に松柏が生い茂り、精麗で幽玄な雰囲気が漂う。

唐代のころは、東岸(香山寺あたり)は文人、文客がよく遊び、則天武后もしばしば東山に遊んでいる。自分の容貌に似せた盧舎那佛が黄金に光るのを眺め、さぞや得意だったろう。香山寺には『錦袍を奪う』と言う逸話がある。

   隋唐嘉話・唐詩記事に(奪錦袍)
武后游龍門、命群官賦詩、先成者賞錦袍、左史東方蛟(きゅう)既賜、坐未安、宋之問詩復成、
文理兼美、左右莫不称善、乃就奪袍衣之。

在る時、武后は香山寺で酒宴を開いた。詩を作ってみよ、と従臣達に命じた。最初に出来た者に錦袍を与える、と賞品をかけた。最初に名のり出たのが、記録をつかさどる「左史」の官。東方蛟(きゅう)であった。錦袍を賜り、意気揚揚と自席に戻り着席しようとした、その時、侍従職の宋之問が詩を完成した。

武后が宋之問に朗読させたところ、二十一句からなる391字の大作。華麗な言葉がちりばめてある。一座の参加者から讃歓の声があがった。武后は東方蛟(きゅう)から錦袍を取り返し宋之問に賜った。

       宋之問の詩
宿雨霽氛埃、流雲度城闕。河堤柳新翠、苑樹花始開。洛陽花柳此時濃、山水楼台映幾重。群公払霧朝翔鳳、天子乗春幸鑿龍。龍問近出王城外、羽従淋漓擁軒蓋。雲蹕僅臨御水橋、天衣已入香山会。山壁嶄巌断復連、清流澄K俯伊川。塔影遥遥緑波上、星龕奕奕翆微辺。層巒旧長千尋木、遠壑始飛百丈泉。綵仗霓旌廻香閣、下輦登高望河洛。東城宮闕擬昭回、南陌溝畛殊綺錯。林下天香七宝台、山中春酒萬年盃。微風一起祥花落、仙薬初鳴瑞鳥來。鳥來花落紛無已、称觴献壽煙霞裏。欹舞淹留景欲斜、石阯P駐五雲車。鳥旗翼翼留芳草、龍騎駸駸映晩花。千乗萬騎鑾輿出、水静山空巌警蹕。郊外喧喧引看人、傾城南望属車塵。囂声引揚聞黄道、王気周廻入紫宸。千王定鼎三河固、宝命乗周萬物新。吾皇不事揺池楽、時雨來觀農扈春。

後に宋之問は北門学士と為らんことを求めて「明河篇」を作って不平を述べた。然し武后は、もはや抜擢の考えは無かった。(千秋詩話・駱賓王と宗之問

 白居易  香山寺 二絶の一
空門寂静老夫閨B  香山寺は至って閑静で、此で遊ぶ我も亦間暇である
伴鳥随雲往復還。  鳥に伴い雲に随って往還徘徊した
家醴満瓶書満架。  瓶に満つ酒と書架に満つ書
半移生計入香山。  全財産の半ばを携えて、この寺に寄留したいものだ

 白居易  香山寺 二絶の二
愛風巌上攀松蓋。  風を愛しては巌上の松に攀じ上り
恋月潭辺坐石稜。  月を恋いては潭辺の岩角に坐す
且共雲泉結縁境。  且つ雲や泉と親交を結んでいる
他生当作此山僧。  再び此世に生まれかえったら、此山の僧にでもなるだろう

香山寺は金王朝が侵入した時に破壊され、場所を移し再建されたが、いつしか衰微したと伝える。

東を眺めると嵩岳の少室峰が見え隠れし、西を俯瞰すると長い橋が鏡のように穏かな水面に架かり、 北をかえり見れば芒山が蜿蜒と起伏し、南を望めると洞窟と佛龕が蜂の巣のように見える。龍門の重要な景勝地。可能ならば、我が青山にしたい。



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