陳子ミ

陳子昂。四川省の出身(当時は梓州射洪。(656〜 697)陳子昂は字は伯玉。左拾遺の官に上ったが,讒言に因って獄死した。「感遇詩」で一躍,世に認められた。一言で言えば彼の詩は風雅の古道に複って,六朝以来の詩風を一変させた。気骨風韻共に優れる。彼こそ「唐詩に行く詩の先鞭を着けた」と言っても過言ではない。「陳拾遺集」十巻がある。

    薊丘覧古 七首のうちの第2首

    南登碣石舘。    南のかた碣石舘に登り
    遥望黄金台。    遥かに黄金台を望む
    丘陵尽喬木。    丘陵 尽く喬木
    照王安在哉。    照王 安くに在り哉
    覇図悵巳矣。    覇図 悵として巳まず
    驅馬復帰来.。    馬を驅って復た帰来する
幽州の地に遊ぶもの。戦国の遺跡に触れ,雄士を抱く者をして,心を痛ましめる。

   州台歌

    前不見古人。     前に古人を見ず
    後不見来者。     後に来者を見ず
    念天地之悠々。    天地も悠々たるを念う
    独愴然而涕下。    独り愴然として涕下る

興亡去来常に無き人の世。古戦場に立ちつくす陳昂昂は感慨が高まる。「この道や行く人なしに秋の暮れ」芭蕉の句意に相い通ずるものがある,

    春夜別友人
 
    銀燭吐青煙。    銀燭 青煙を吐き
    金尊対綺縁。    金尊 綺縁に対す
    離堂思琴瑟。    離堂 琴瑟を思う
    別離繞山川。    別離 山川を繞る
    名月陰高需。    名月 高需に陰
レ   長河没暁天。    長河 暁天に没す
    悠々洛陽去。    悠々として洛陽に去れば
    此会在何年。    此の会 何れの年にか在らん

多くの初唐の詩人たちの中で,最も高く評価されている詩人は現在では陳子昂であろう,六朝風の華麗な作風の余波から完全に脱却して,復古を唱えて漢・魏詩の風格を獲得した。
この系統の詩人には,やや遅れて張九齢がいる。共に杜甫に通ずる作風を備えている。


  03/01/2008    石九鼎