重遊何氏五首之一

此の詩は何将軍・山林に二度目に遊んだ時に作ったもので,製作時が前遊が夏で聯作が十作。後遊聯作が五首ある。前遊が天寶十二載。此の作品は十三載。杜甫が未だ官途に就いていない時の作。
              重遊何氏五首・録之一
問訊東橋竹。    問訊す東橋の竹
将軍有報書。    将軍 報書有り
倒衣還命駕。    衣を倒にして 還 駕を命ず
高枕乃吾廬。    枕を高くすれば 乃ち吾が廬
花妥鴬捎蝶。    花妥て鴬 蝶を捎め
渓喧獺趁魚。    渓喧くして獺 魚を趁う
重来休沐地。    重来 休沐の地
真作野人居。    真に野人の居と作す

詩語
[問訊] 問い合わせること。[西陽雑染]北部童子寺唯有竹窠。纔長数尺。其寺網維毎日報竹平安。
[東橋竹] 第五橋辺の竹を言う
[倒衣] 上着と下裳を取り違えて着る。急いで往く心持ち現す形容語。
[還] 「また」と読む俗語なり。
[高枕] 安心して休む心持ち
[花妥] 花の堕ちたること。
[鴬捎蝶] 「捎」は掠める。捉えようとする意で,鴬が喋々を捕えようとこと。
[獺趁魚] 獺が魚をあとから,おっかけること,
[休沐地] 休息の地。漢の制度では,内官は五日に一日休む。現今の日曜日のようなもの。
[野人] 杜甫自ら称して言う。

詩意
何将軍の處へ,東橋の竹は平安ですかと尋ねたら,将軍から竹は無事であるから,遊びに来ないかと返書が来た。大喜びして,取るのも取りあえず,何将軍の別壯に着いた。
一晩泊まり枕を高くして寝てみると,全く自分の家かと想う位い気楽である。木の葉が落ちたのかと想ったら鴬が喋々をすれ違って,之を捕らえ様としているのだった。渓川の水が変に聞こえるので見たら獺が魚を捕え様としているのだった。
なに将軍の安息所は私の様な野人に相応しい住居の感じがする。

鹵莽解説 』
杜甫は前遊の時に,此の山林の幽邃閑雅の景に対して,得意の詩を賦して,親しい友人鄭廣文からも,文学趣味に深い主人何将軍からも,激賞を蒙り,此の別壯で深厚まで親しい三人で物語りに耽ったので,余程愉快であった,と見え,自分は吾が心の知りあい,豊富な思想を沢山持っている。含蓄があり言外の味が津津として尽きない。
石が水の中に突つ立った様に「奇峭」の二句を置いて遮断してしまい。此の句が倒装法で出来ている。以観の点から言えば,逆である。下の三字が実際の主眼である。「鴬」・「喋々」。
「獺」・「魚」。前の二字は言わば唯,後の三字の虚影に過ぎない。よく翫味してみると,実に奇抜な面白い句である。
最後の七・八の句に到って,今度は明白に重ねて来た。ことを叙した。第七句が前の四句を結び,第八句が後聯の二句を結んでいる。
杜律は挌法が森厳であると言うが,照応が自然で,わざとらしい技巧が無い。「野人居」などなに将軍の別壯を言うのは,天寶年閒には,五家が競って邸第を起こし,一堂の費用が数万金を越えると言う風で,バブルそのものの時代謳歌。

韋氏の宅を撤去して虢国夫人の居としてから,又親仁坊へ禄山の邸を起こし,実に壮麗華美を極めたもので奢侈に流れた,暗に質朴の気風を称揚して時世を風刺したような感じもする。


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