重過何氏   五首之一首

問訊東橋竹。   問訊す東橋の竹
将軍有報書。   将軍 報書有り
倒衣還命駕。   衣を倒にして 還た駕を命ず
高枕乃吾盧。   枕を高くすれば乃ち吾が盧なり
花妥鶯捎蝶。   花妥にして 鶯は蝶を捎すめ
犬迎曾宿客。   犬は迎う曾つて宿せし客
谿喧獺趁魚。   谿喧くして獺 魚を趁う
重来休沐地。   重ねて来る休沐の地
真作野人居。   真に作野人の居と作る

詩語
[東橋竹] 前編の第五橋の竹を言う。
[報書] 返事の手紙。
[倒衣] 上着と下衣裳を取り違えて着る。急いで往く心持ちを現した形容語である。『詩経』斉風。東方未明顚倒衣裳。
[還] 「また」と読む,俗語である。 []
[命駕] 車馬の用意をさせること。『晉書』呂安與嵆康共,毎いち相思千里命駕。
[高枕] 安心して休む。『陶淵明』吾亦愛吾廬
[花妥] 花の妥つること,関中の人「落ちる」ことを妥と言う。
[鶯捎蝶] は掠めること,鴬が喋を捕らえようとうる。
[獺趁魚] 獺が魚を後から趁っかけるおと。
[休沐地] 休息の地。漢の制度で,内官は五日に一日休む,現在の日曜日のようなもの。之は将軍の休暇安息のことを言う。
[野人] 杜甫自身をいう。

詩意
 花の堕ちること,関中の人「落ちる」ことを妥と言う。
将軍の処え東橋の竹は如何ですか?と尋ねたら、将軍から竹は無事だ遊びに来ないか?の返事があった。それで喜んで大急ぎで衣を逆さ目に着けたりして、乗り物の用意をさせて出かけたが、園へ到着して、枕を高くして寝ころんでみると他人の庵とも思えぬ。木の葉間で鶯が蝶蝶とすれ違ってるが、花がけち散らされるでは無く、渓川が騒がしいと思うと、川獺が魚を捕まえ処だ。将軍の安息所へ、これで2回目の訪問だが、此処は自分のの野人の住居となった気分になった。
再び何氏の別邸に遊んだ詩五首ある。此の遊は天宝十三年春

鹵莽解字
此の詩は何将軍山林に二度目に遊んだ時に作ったもの。製作の時は前遊は夏で連作が十首ある,後遊は春で連作が五首。前遊は天寶十二載(年)の作で,杜甫が未だ官途に就かない時である。杜甫は前遊の時に,此の山林の幽邃閑雅の景情に対し,得意の詩を賦して,親友・鄭広文,文学趣味の深い将軍・何将軍から激賞を蒙った。
此の別荘で深夜まで三人で飲酒・雑談に耽った,余ほど快楽と見え,知友の鄭広文に風雨に関わらず此の場所で再び遊びに来たいと言った。事情により再遊は翌年の春になってしまった。再遊の五首の連作の主眼は重遊の事実が其の意を離れ無いように入念の作品となっている。
重遊の際,後世の詩作者に対し,詩聖・杜甫の筆法作法は同じ題目の詩でも錯綜変化の妙があり此の如く成す可き。と非常に面白い。此の五律は豊富な思想を自由に盛り,含蓄があり言外の意が津々として尽きない。
起聯は「問訊東橋竹。将軍有報書」将軍に問い合わせたら,将軍から去年の別れる際に風雨関係無く来る様に,丁度時候もよ良い,お出でなさいと返書があった,と起聯二句で道破する。
後聯は林中に見聞したことを材料として筆を着け「 花妥鶯捎蝶。谿喧獺趁魚」と奇句を以て,山林隠逸の奥深い景色を写し,再遊が春であることを明示し,前は眼で見た句で,後は耳で聞いた句。


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