蛍 火
蛍のか細い光を見て作詩する。乾元二年。近体詩。

幸因腐草出。    幸に腐草に因りてづ出づ
敢近太陽飛。    敢て 太陽に近づいて飛ぶ
未足臨書巻。    未だ書巻に臨むに足らず
時能点客衣。    時に能く客衣に点ず
随風隔幔小。    風に随いて幔を隔てて小に
帯雨傍林微。    雨を帯びて林に傍ひて微なり
十月清霜重。    十月 清霜 重し
飄零何処帰。    飄零 何の処にか帰らん

○[臨書巻] 晋の車胤の故事。所謂、「ほたるの光」。
○[礼記、月令] 腐草化爲蛍。


詩語解
[腐草] 腐った草。
[敢近] 反語に読む。
[飄零] 落ちぶれる。

訳文
ホタルは幸いにも腐った草のなかから産まれ出たのだ。そんなものが太陽に近づいて飛ぶなどということがどうして出来ようか。未だ書物の傍を照らすだけの十分の光は無いが、時として旅人の衣の上にチラリと留まること位は出来る。また、風にに吹かれながら幕の外で小さく光ったり、雨を帯びながら林に添うて微かに見えたりはする。十月ともなると、冴えた霜が重く置くが、その頃は此のホタルは落ちぶれて何処へ行ってしまうのだろうか。

[余論]
旧解に宦官、李輔國を例えたという。然し此の様に説くならば、最初の二句位は理屈も付けるであろう、他の緒句は義を爲さず。比喩とせば、寧ろ自己の境遇を例えたと見るに如かず。(旧書に曰く)



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