卜 居   居を卜す。
成都の浣花渓に住居を定めたこと。上元元年(760)春の作。杜甫49歳。近体詩。

浣花渓水水西頭。     浣花渓水 水の西頭
主人爲卜林塘幽。     主人爲に卜す 林塘の幽なるを
已知出郭少塵事。     已に知る 郭を出でて 塵事の少きを
更有澄江銷客愁。     更に澄江の客愁を銷す有り
無数蜻蜓斉上下。     無数の蜻蜓 斉しく上下し
一双鸂鶒対沈浮。     一双の鸂鶒 対して沈浮す
東行万里堪乗興。     東行万里 興に乗ずるに堪えて
須向山陰上小舟。     須らく山陰に向かって小舟に上るべし

○[流]、[一作之、]一に之と作る。○渓。[詳註本作渓。]詳註本渓と作る。○上。詳註本作入。[詳註本入に作る。]
○[浣花。] 成都の西郊の外を流れる浣花渓。一名、(百花潭)。杜甫はその畔に草堂を構えた。
○『陶淵明・詩』[遂與塵事冥]遂に塵事與と冥らし。
○『謝朓・詩』[澄江浄如練]澄江 浄く練の如し。


詩語解
[主人] 作者自身。
[林塘] 林やつつみ。
[郭] 城郭。
[澄江] 江は錦江。
[鸂鶒] (けいせき)。おしどり。
[万里堪乗興] 浣花渓の東に万里橋、此処は『華陽國志』に「蜀、費褘をして呉に聘せしむ。孔明之を送る。褘嘆じて曰く;万里之行、此の橋より始める」とある、それに興を起こしたもの。
[山陰上小舟](世説新語にある晋の王緻之の故事。「緻之、字は子猷。山陰(紹興)におり、ある雪の夜、剡渓の戴安道を懷い舟に乗って行く、門前まで来て帰った。人が聞くと、「我もと興に乗じて行く。興尽きて返る」と言った。
[入小舟] 一に上小舟に作る。

詩意
浣花渓の水の流れるその西のほとり、そこに自分は林塘の幽邃な処を卜して住居と定めた。此処は城郭から外なので、俗事が少ない事が解って上に、更に、私の旅愁を消してくれる澄んだ江もある。多くのトンボが水の上下を飛んでいるし、一番(つがい)のおしどりが、浮きつ沈みつしている。万里橋から興に乗ずれば東の方、万里の遠方まで行く事も叶うだろう。小舟に乗って、山陰の方まで出かけて行こうかなナ。


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