狂 夫
自己の狂態を嘲り作詩したもの。上元元年。近体詩。

万里橋西一草堂。     万里橋西の一草堂
百花潭水即滄浪。     百花潭水 即ち滄浪
風含翠篠娟娟静。     風は含みて翠篠 ?娟娟として静か
雨包紅蓮冉冉香。     雨は包む紅蓮 冉冉として香し
厚禄故人書断絶。     厚禄の故人 書断絶
恒飢稚子色清涼。     恒飢の稚子 色清涼
欲填溝壑唯疎放。     溝壑に填せんと欲するも 唯だ 疎放
自笑狂夫老更狂。     自ら笑う狂夫 老いて更に狂するを

○一。  [一作新。] 一に新と作る。                                  []
○静。  [詳註本作浄。] 詳註本に浄と作る。
『万里橋』 [錦江にかかる橋。]
[百花潭] 浣花渓の別称。 
[?浪]『楚辞・漁夫篇』 [?浪之水清兮、可以濯吾纓、?浪之水濁兮、可以濯吾足。]とある。隠逸を象徴させる川。この歌は[孟子・離婁上]にも見える。
『謝霊運・詩』 [禄篠媚清漣。] 禄篠 清漣を媚びる。
『向秀・思旧賦] 「稽康志遠而疎、呂安心昿而放」 稽康の志し遠くして疎、呂安の心 昿して放なり。

詩語解
[滄浪] 青色の水。
[篠]  しに竹。
[冉冉] 次第に生ずる。
[厚禄故人] 大官と成っておおくの俸禄をもらっている旧知の友人。
[書断絶] 書信が途絶え。
[恒飢稚子] 何時も飢えている子供。
[色] 顔つき。
[填溝壑] 野垂れ死にすること。
[疎放] 気ままにする。

詩意
万里橋の西に一の草堂がる。その傍にある浣花潭の水は即ち自分にとっては滄浪の水で隠退の場所である。見渡せば翠色の篠竹は風を含んで娟娟と美しく浄らかであり、雨に潤い包まれている。紅の蓮のはなは次第に生じている。最近、旧友からの手紙は途絶え、いつもひもじがっている子供の顔色は悲しげにみえる。自分は今にも野垂れ死にしそうに成っている。元来狂夫である、この自分は年が寄って一層狂気じみてきたのかと、自分ながら可笑しくなる。


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