春日憶李白
  春の日に李白を想い作詩したもの。この作詩は天宝五載の春、杜甫は已に長安に帰り後の作。李白はこの時期に江南に在り。

白也詩無敵。   白や 詩に敵なし
飄然思不羣。   飄然として 思い羣ならず
清新庾開府。   清新は庾開府
俊逸鮑参軍。   俊逸は鮑参軍
渭北春天樹。   渭北 春天の樹
江東日呉雲。   江東 日呉の雲
何時一樽酒。   何の時か一樽の酒
重與細論文。   重ねて與に細かに文を論ぜむ

詩語解
○=近体詩
○=白也。 李太白を指して言う。親し
○=敵。一に【数】と作る。名を呼ぶことは親しむの意。
○=思不羣。 人並み優れていること,『詩品』に「漢曹植,超越古今,卓爾不群。」とある
○=清新。 集注に[蕭楊州薦士表,辞賦清新。]と在る。
○=庾開府。梁の庾信のこと。北周で開府儀同三司に任ぜられた。
○=鮑参軍。宋の鮑照のこと。臨海王の前軍参軍であった。

詩意
李白よ、あなたは思想が自由闊達奇抜で凡俗を超越している、詩に於いては誰も匹敵する者がいない。あなたの詩風を古人で比較するなら、清新なること北周の庾信の如く、俊逸なことは宋の鮑照の様である。僕は今、渭北の春天の樹を眺めている、君は江東の日暮の雲に嘯いているだろう、南北相い隔だてているが、何時また一樽の酒を酌みながら、以前の様に再会して詩文について論じ逢うことが出来るだろうか。此の詩は天宝五年の春、杜甫は既に長安に帰り、李白は江南に在る

鹵莽解字
この詩の特徴は「破題に作る」。
後聯に渭北春天樹と江東日呉雲の対句が見事なものである。渭北とは渭水の北。渭水の北と言えば即ち長安。
長安は当時の唐の都。其の長安に我が在る。李白は遠く「江東」呉の国に在る。


細論文。この細論文について「宋代の詩話」に諸説有る。宋儒はとかく詩を理屈ぜめにするから,宋の詩話には下らぬ事が多多在る。理屈っぽいのが宋代たる所以

李白の詩才を賛嘆して上四句は一意に貫通する,其の飄然という字の形容が如何にも李白に適切で,一個の「�謫仙人」を躍り出す。「思不群」の三字が前聯を割り出す。太白の超逸した才能を周の庾信と宋の鮑照に比較する。
後聯は「春日憶」の三字の
題意より出したもの。景より情を生じ,言外の余情は詩の最も尊ぶべき處。


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