可 惜
成都での老年 春に遇えることを述べる。上元二年。近体詩。

花飛有底急。    花は飛ぶこと 底の急が有る
老去願春遅。    老い去っては春の遅からんことを願う
可惜歓娯地。    惜む可し 歓娯の地
都非少壮時。    都て少壮の時に非ず
寛心応是酒。    心を寛うすは応に是れ酒なるべし
遣興莫過詩。    興を遣るは 詩に過ぐる莫し
此意陶潜解。    此の意 陶潜解す
吾生後汝期。    吾が生 汝が期に後れたり

[詩語解]
[底] 何に同じ,俗語。
[春遅] 「遅」は早すぎぬことをを言う。
[歓娯地] 嬉しく楽しむ場所。處。即ち,春をいう。
[非少壮時] 老年なる,をいう。
[寛心] 心をくつげる。
[此意] 詩酒により自己を慰めることをいう。
[陶潜] 陶淵明のこと
[解] さとる。
[吾生] 自分が生まれたとき。
[汝期] 陶潜を指す。期は生存する時期。(陶淵明の生存していた時期)。

[詩意]
何の急用があって,慌ただしく花は飛び散って行くのか,年老いてゆく身の自分は春の歩みの遅いことを願っているのに。本来ならば面白く,可笑しく過ごすべき處であるが,自分も時々,歓楽の席に連らなる身になったが,少壮の時でなく老衰の時であるのが残念で惜しい。今の自分の身出心をくつげる物といては,酒である。興をやるには詩に勝るものは無い。此の心持ちは昔,陶淵明が知っていた。自分の生まれが,彼より遅かりしことは残念である。


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