促 織    46

促織甚微細。    促織は甚だ微細なり
哀音何動人。    哀音 何ぞ人を動かす
草根吟不穏。    草根 吟ずること穏かならず
牀下意相親。    牀下 意相い親しむ
久客得無涙。    久客 涙なきを得むや
故妻難及晨。    故妻 晨に及び難し
悲絲與急管。    悲絲と急管と
感激異天真。    感激 異天真に異なり

詩語解
[促織] こおろぎ。冬着の仕度を促すと言う意。
[吟不穏] 落ち着かなく鳴く。
[意相親] 秋の虫の心は自分に親しみを求め,自分の心も又,虫に親しむ。『詩経』の[七月]の詩に[七月は野に在り,八月は宇に在り,九月は戸に在り,十月には蟋蟀の我が牀下に入る]とある。
[蟋蟀] 促織と同じ。
[久客] 長い間,旅にある人。
[故妻] 夫に棄てられた妻。
[難及晨] 朝まで我慢dきない。
[悲絲與急管] 悲しげな弦楽器,急がしそうな管楽器。
[感激異天真] 感激とは人の心をかき立てること。天真とは天然のままの意。『世説新語』の[識鑒 ]篇:東晋の孟嘉の言葉に,器楽と声楽を比較して「糸は竹に如かず,竹は肉に如かず,漸く自然に近ければなり。」ちある。

詩意キリギリスの鳴く音を聴き、その物哀しさを読む。こおうろぎよ,お前は小さな虫なのに,哀れな鳴き声は何故に私の心をゆさぶるのか。草の根本で落ち着かげに鳴くが,何時の間にか私のベットの下で親しみに話しかける。お前の声を聞くと久しく旅にある身は涙なしでは,居られないし,捨てられた妻は夜明けまで待ちきれないであろう。糸竹の悲しく切ない調べとて,人の心をかき立てる事は,天然のものとて,及ばないぞ。 


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