遺 懷 懷を遺る 乾元二年秋の暮れ。秦州にての作。 愁眼看霜露。 愁眼 霜露を看る 寒城菊自花。 寒城 菊 自ら花く 天風随断柳。 天風 断柳に随い 客涙堕清笳。 客涙 清笳に堕つ 水静楼陰直。 水静かにして楼陰直く 山昏塞日斜。 山昏くして塞日斜めなり 夜来帰鳥盡。 夜来 帰鳥盡き 啼殺後棲鴉。 啼殺す 後棲の鴉 [詩語解] [天風随断柳] 断柳が天風に随うと言うべきとこらを,顚倒して言う形。 [断柳] ちぎれた柳。 [清笳] 音の澄んだ胡笳の声。 [楼陰] 城楼の影。 [塞日] 晋州の城塞を照らす日。 [啼殺] 殺は意味を強める助詞。 [後棲鴉] 外の鳥はそれぞれねぐらに帰ったのに,ひとりねぐらに遅れた鴉。 此の地に留まり帰るべき家もない自分の身を比している。 [詩意] 愁いを帯びた眼で見れば,はやくも霜露が降りて,寒ざむとした此の城塞に,菊の花がいくつか咲いている。空吹く風はちぎれた柳の葉が舞い逐う。旅人は,澄んだ胡笳の音を聞いていると落涙する。水は静かに動かず,城楼影を真っ直ぐに映し,山は暮れかかり,辺塞の日が斜めに沈もうとしている。やがて夜になる,鳥はみな林に帰り盡くしたのに,ねぐらに遅れた鴉だけが声も悲しく啼いている。 Copyright(C)1999-2011 by Kansikan AllRightsReserved ie5.5 / homepage builder vol.4"石九鼎の漢詩舘" |