不 見     [近無李白消息]
上元二年。近体詩。 久しく李白を見ないので,心配してその身を思い作詩したもの。

不見李生久。    李生を見ざること久
佯狂真可哀。    佯狂 真に哀む可し
世人皆欲殺。    世人 皆な殺さんと欲す
吾意独憐才。    吾が意 独り才を憐む
敏捷詩千首。    敏捷 詩 千首
飄零酒一杯。    飄零 酒 一杯
匡山読書處。    匡山 読書の處
頭白好歸來。    頭白 好し歸り來れ

○好, 一作初。
匡山 李白育成四川省綿州彰明県青蓮郷。


[詩語解]

作者自注に「近頃,李白の消息無し。」とある。李白は安禄山の乱の時,永王の叛乱に参加したため,乱後,至徳二年(757年)投獄され野郎(貴州省の北部)に流され,消息を絶った爲
[李生] 李白のこと,李白が野郎に流されてのち消息を詳にしなので杜甫が心配して述べたもの。
[佯狂](ようきょう)。 偽って,狂人の真似をする。
[敏捷](びんしょう)。 すばやいこと。
[飄零](ひょうれい)。 おちぶれる。
[匡山](きょうざん)。 四川省綿州彰明(しょうめい)県青蓮郷の人。一説に江西省九江の匡廬山,即ち廬山という説もある。
[頭泊] 李白の老いたる事をいう。
[歸來] 匡山へ歸へって來い。

[詩意]
久しく李白に遇わないが,気狂いの真似をしているが,実に気の毒なものである。世間の人は彼を妬み殺そうとまでしているが,私だけは彼の才を愛している。彼は詩才は素晴らしく忽ち千首の詩を作りだす,それが,落ちぶれて,ただ酒の一杯の愁いをする。匡山は昔, 読書の處である。老境となっては早く歸り來たほうが好いと思う。   



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