月夜憶舎弟    2-88-71
 乾元二年 秋・秦州に於いて。明月の夜,我が家の弟達を思い作詩したもの。

戍鼓断人行。    鼓 人行 断える
邊秋一雁声。    邊秋 一雁の声

露従今夜白。     露は今夜より白し
月是故郷明。     月は是れ 故郷の明なり
有弟皆分散。     弟有れども 皆な分散する
無家問死生。     無の死生を問うべき無し
寄書長不逹。     書を寄せるも 長くは逹せず
況乃未休兵。     況や乃ち未だ兵を休めしざるをや

詩語解
戍鼓] (じゅこ)番兵達の鳴らす鼓。
人行] 人どうり。
邊秋] (へんしゅう) 辺地の秋。
[露従・・・・・] 白露の時節に入ることを言う。
[月是・・・・・] [清朝・仇兆熬・杜詩詳註編=月明のいろ,故郷の如し。]
[有弟] 弟一人は陽?。一人は済州に在り。
[無家・・・・・。] 家族を言う。この時,杜甫は妻子を伴い家は有るが,此処ではひろく同族をこめていう,東郡(洛陽)の家についていう。
[死生] 先方の人々の生死。
[寄書] こりらから出す手紙。

詩意」番兵らが打ち鳴らす鼓の音はするが、人の通行は途絶え邊地の秋に一羽の雁が飛ぶ今夜から初めての白露に時節に入るが、月の光は故郷と同じ様な明るさである。弟はいても皆、あちら、こちらと分散して、生きているのか死んでいるのか、尋ねる家さえも無い。手紙を出しても何時までも届かぬ、彼らの安否が気にかかる。そればかりk、未だ天下に於いて騒乱が止まないので、我が一家どころの沙汰ではない。

鹵莽解字
此の詩は乾元の二年,杜甫が官を棄てて西に走り,隴を渡って秦州に入った時の作である。此の年の九月には燕の将軍,史思明の軍が東京及び斉・魯・鄭・滑の四州を陥れた。戦乱が引き続き戍鼓の声が止まない状況の中で,秦州の辺地に漂泊している。
此の秋夜の明月に対して家族兄弟を思う,杜甫には三人の弟が居るが各地に居住し皆な分散していた。骨肉分離の原因は兵乱のためである。故に首句に,「
戍鼓断人行」と言い,韻を踏んで力を強め,総べての感慨は自から是より生ずるした。
「辺州一雁声」人の往来も絶え,辺地の月夜に独り一雁の空を鳴き渡のを耳にし,自分は頼りも無い孤雁の如く,兄弟と別れ,漂泊の旅を続けている。雁は雁縄と言い,常に群を成し列を作り空を度る。此処に一雁と言う意味が深長である,雁は兄弟の事と関係がある,因って此の雁声から兄弟の情をを呼び起こす。

「露従今夜白」は白露節と言うことを現し,此の節に入れば已に中秋八月で中空に懸かる月は一層光輝を放ち,皓々として萬里を照らし,何処から見ても明らかに澄んで見える。此の明月は同じく郷里でも明らかに照り輝いているであるに違いないが,兄弟共,皆な散在し,それぞれ異国に在る,郷里には只だ此の明月があるのみで,其処には誰もいない。則ち「月是故郷明」と此の事情を言う。


「有弟皆分散。無家問死生」 分散しているから家もなく,みんなのものが,何処を家と定めるということも無い。死生を問うべき処もない。「寄書長不逹。況乃未休兵。」 こちらの手紙も先方に届かない,先方の手紙も,こちらに届かない。兵乱の禍を説き,一家の事情に及ぶ。

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