野人送朱桜
ある農民が桜の実を送って来たことを読んだ詩。上元・寶応の間,成都での作。寶応元年(51)。近体詩。

西蜀桜桃也自紅。      西蜀の桜桃も 也た自から紅なり
野人相贈満?篭。      野人相贈りて ?篭に満つ
数回細写愁仍破。      数回 細写す 仍を破れぬことを愁う
萬顆凹「訝許同。      萬顆凹「 許ごとく同じかと訝る
憶昨賜霑門下省。      憶う昨 賜霑す門下省
退朝フ出大明宮。      退朝フ出す大明宮
金盤玉筋無消息。      金盤玉筋 消息無く
此日嘗新任転蓬。      此日 嘗新 転蓬に任す

詩語解
[野人] 百姓。
[朱桜] さくらんぼ,みざくら。
[西蜀] 西方の地,二にとは都に対して言う。
[也] 「亦」に同じ,都の桜桃に対して言う。
[相贈] こちらへ,贈ってくれることをいう。
[?篭] 竹かごのこと。
[細写] 実が壊れぬように,少しずつ移す。
[仍破] 「仍」は「それでもなを」 破は破損。
[凹「] そろってまるい。
[許] 此くのごとく。
[昨] 往年左拾遺として長安に有ったとき。
[門下省] 長安の宣政殿の東にある,左拾遺の官は其処に隷属する。
[退朝] 朝廷よりしりぞく。
[フ出](けいしゅつ) 捧げて出ずる。
[大明宮] 禁苑の東にあり,唐(代)では四月一日に天子の御園より桜桃を取り之を宗廟に薦めた。
[金盤] 黄金の大皿。
[玉筋] 玉で作った「はし」。桜桃を盛り,之を摘む。のに用いた。
[無消息] 此処の句は,粛宗の崩御の意を含む。粛宗は寶応元年四月十八日丁卯に崩じた。
[此日] 作者・杜甫が之を食べたその日。
[転蓬] よもぎの葉のように,転がり行く如く漂泊の生活をなすをいう。

詩意
此処の蜀の桜桃も都と同じく,紅である。その実を百性(農民)が竹かご一杯に贈ってくれた。籠(かご)から開けるときなんども少しづつ移す。実が破損しないかと気遣うた,千個も万個も粒が揃い圓いので,不思議に思う程である。思えば,前年門下省に務めていた朝,我々までも,この実の御下賜の恩典があり,朝廷から退く時,大明宮から頂いた実を捧げて退出したものだ。今や自分はこの蜀の遠方に居て前日の,金盤や玉筋を頂く様子如何については消息が無い。惟,今日こそこんな新味を嘗めて漂泊のまにまに,暮らしている有様である。  



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