返 照
三峡の落日を詠い,自己の感慨を述べる。 大暦元年。

楚王宮北正黄昏。    楚王の宮北 正に黄昏
白帝城西過雨昏。    白帝城 西過雨の昏
返照入江翻石壁。    返照 江に入りて 石壁に翻り
帰雲擁樹失山邨。    帰雲 樹を擁して 山邨を失す
垂年病肺惟高枕。    垂年 肺を病んで 惟だ枕を高くし
絶塞愁時早閉門。    絶塞 時を愁いて 早く門を閉づ
不可久留豺虎乱。    久しく豺虎の乱に留まる可からず
南方実有未招魂。    南方 実に未だ招かざるの魂有り

『楚王宮』 夔州の東,巫山に有った楚王の離宮の跡。
『豺虎』 やまいぬ,とら。
『楚辞,九章,抽思』 黄昏以爲期。
『楚辞,招隠士』 山中兮不可以久留。
『楚辞,宋玉,招魂』 魂兮歸來,南方不可以止些。


[詩語解

[過雨] 降りしきり後の通り雨。
[翻石壁] 夕日の光が水面を照らし,それが石壁に反射すること。
[帰雲] 山へ帰って行く雲。
[失山邨] 山邊の村が雲に隠れて見えなくなること。
[絶塞] 遠く離れた城塞。
[豺虎] 獣のような盗賊達。
[未招魂] 『宋玉が招魂の賦』 屈原が放逐され,その魂が離散して帰られないことを憐れみ,巫女の言葉を借りて屈原の魂を楚の都に帰れるように招いた。此処では[未招魂]とは,この宋玉の招魂をふまえて,都に呼び返されない魂。即ち作者自身のことを云う。


詩意
楚王の宮北が丁度黄昏れになり,白帝城の西に通り雨が残っている。夕日の照り返しが江波に入りこんで,この爲に岸邊の石壁の影が煽り立てられる。
帰り行く雲が樹木を包んで山邊の村が見えなくまった。自分は老衰の身になって肺の病気がある爲に,惟だ枕を高くして臥し,僻地の塞にあって,時世の危険を思い,早く門を閉めてしまう。
南方にまだ京師へ呼び返されない我が魂があるが,何時までこんな盗賊の騒ぎのあるところに逗留してるこたが出来ようか,早く帰りたいものだ



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