水檻遣心
此の詩杷杜甫が蜀の成都に居た時,浣花草堂の「水檻」手すりに凭り掛かり興を遣ったもの。
上元二年。近体詩。


 水檻遣心二首之一
去郭軒楹敞。    郭を去って軒楹 敞に
無村眺望賖。    村なく眺望 賖なり
澄江平少岸。    澄江 平に岸少なく
幽樹晩多花。    幽樹 晩に花多く
細雨魚児出。    細雨 魚児出で
微風燕子斜。    微風 燕子斜んり
城中十萬戸。    城中 十萬戸
此地両三家。    此地 両三家

○遣心,一作遺興。
○村, 一作材。


詩語解
[去郭] 郭は城外,中国の都市は大概 城で囲んである。 市外の意。
[軒楹] のき と はしら。
[敞] ほがらか。
[少] 減ずる意味。

詩意
都を離れた田舎の家の軒先は全く晴れ晴れして明るい。まして眼に入る村も無いくらいだから,遠くの眺望が頗る宜しい。さざ波は渚を平にしてヒタヒタ打って,川の水は澄んで岸もなく,向こうの樹は静かで静かで夕方になり,白く光って居る花が沢山に見える。春雨がしっとりと降った後だから川面に小さい魚が泡を吹いて浮かび出て,燕は軽く体をかわして柔らかく吹く風に斜めに飛んである。蜀の都の戸数は十萬以上もあろうか,此処は辺鄙の地だから,やっと今二三戸の家しかない。

鹵莽解字
此の詩は杜甫が蜀の成都に居住し閑散時に浣花艸堂の水檻に凭り掛かり野面を眺めの興趣をのべたもの,時は春雨の夕景を詠む。,心中は自然の景色を八句全体を対句が興趣を添える。
其の描写法が杜甫の杜甫たる由縁。描写は横から平面的に写し出している。全体が水亭の檻外の眺望を作詩している。
杜甫は境遇上から血の滲むような沈鬱で沈着剛健的な詩を得意とするが此のような欧州意大利の明るい空気を感じる写生的な面白い詩もある。

『葉石林』曰く:詩語は過巧を忌むが,・・・此の詩の細雨二句の如きは一字の虚設が無い,細雨が水面に附けば泡が生じ,魚は常に上に浮かぶもので,もし大雨ならば潜伏して出てこないものだ。燕は身は微少,風が猛しければ抵抗できない,微風なればこそ之を受けて勢いを成す,杜詩に「軽燕受風斜」の句もあるが,,実に精微の極に逹した写生句である。】と嘆賞している。



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