暮 帰
題義]暮れに我が家に帰った時の感を述べる。(仇兆鰲は,大暦三年暮秋,荊州公安県にての作とするが,他の説もある。)

霜黄碧梧白鶴棲。     霜に黄なる碧梧に白鶴棲む
城上撃柝復鳥啼。     城上の撃柝 復 鳥啼す
客子入門月皓々。     客子 門に入れば 月皓々たり
誰家搗練風凄凄。     誰が家か 練を搗く 風凄凄たり
南渡桂水闕舟楫。     南 桂水を渡らんとすれば 舟楫を闕く
北帰秦川多鼓鞞。     北 秦川に帰らんとすれば 鼓鞞 多し
年過半百不称意。     年 半百を過ぎて 意に称はず
明日看雲還杖藜。     明日 雲を看て 還た藜を杖かむ

詩語解
[皓々] 光の白き様子。
[客子] 自己をいう。
[搗練] きぬたに,てねりぎね,をいう。
[凄凄] 冷たい様子をいう。
[桂水] (現)江西省自治区桂林市興安県海陽山より出て南渡する。灕水ともいう。湘水は同じ山より出て北流する。作者は湘水を泝(さかのぼり)りて,更に桂水にも棹さし南行する意ある。
[秦川] 長安杜陵の樊川を指すものであろう。

詩意
霜のために葉の黄色になった碧梧に白い鶴が宿った。
城の上には柝を打つ音がしたり,烏の啼く声がする。
旅人である自分が今,戻り門に入ろうとすると,月の光は皓々と輝いている。
何処の家であろうか,衣を打つ音がする,風が冷たそうに吹いている。
私は南行して桂水を渡たろうとすれば舟楫の便が無いし,北の方,故郷の秦川へ帰ろうとすれば,兵乱の太鼓や鼓のが,やたらと聞こえてきて心配である。
五十歳以上にもなって(この時,五十七歳)萬事は思うようににならぬ。
明日はまた雲を看ながら,藜の杖でもついて暮らそうか。



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