登 高 大歴二年秋。夔州で重陽の日に,親しい人も無く,ただ一人,台にのぼり思いに耽る。 風急天高猿嘯哀。 風急に天高くして猿嘯哀し 渚清沙白鳥飛廻。 渚清く沙白くして鳥飛廻す 無辺落木蕭蕭下。 無辺の落木 蕭蕭として下り 不盡長江滾滾来。 不盡の長江 滾滾として来る 萬里悲秋常作客。 萬里の悲秋 常に客と作り 百年多病獨登台。 百年の多病 獨り台に登る 艱難苦恨繁霜鬢。 艱難 苦だ恨む 繁霜の鬢 潦倒新停獨酒杯。 潦倒 新に停む 獨酒の杯 [詩語解] [猿嘯] 猿の啼き声 [無辺] 果てのないこと。 [蕭蕭] 落葉の落ちる音。 [不盡長江] 流れて尽きないこと。 [滾滾] 水の盛んに湧き流れるさま。 [百年] 一生涯。 [繁霜鬢] びんの毛がすっかり白くなったこと。 [潦倒] 老いぶれる,落ちぶれる,何ことも投げやりになる。 [詩意] 風は急に天は高く猿の啼き声が哀しくひびく。渚は清く沙は白く鳥が輪をへがいて飛ぶ。 果てしない落ち葉はザワザワと音を立てて地に落ち,長江の水は湧き立ち,尽きぬ。 故郷を去ること萬里,秋を悲しみながら客中の客の放浪の旅人である,生涯病躯ながら本日九月九日,台にのぼっている。生活苦が続き鬢が白くなってきた。僅かな慰めでもあった濁り酒も口にしなくなった。 Copyrightc 1999-2011"(Kanshikan)"All rights reserved. IE6 / Homepage Builder vol.4 |