登 高
大歴二年秋。夔州で重陽の日に,親しい人も無く,ただ一人,台にのぼり思いに耽る。
風急天高猿嘯哀。    風急に天高くして猿嘯哀し
渚清沙白鳥飛廻。    渚清く沙白くして鳥飛廻す
無辺落木蕭蕭下。    無辺の落木 蕭蕭として下り
不盡長江滾滾来。    不盡の長江 滾滾として来る
萬里悲秋常作客。    萬里の悲秋 常に客と作り
百年多病獨登台。    百年の多病 獨り台に登る
艱難苦恨繁霜鬢。    艱難 苦だ恨む 繁霜の鬢
潦倒新停獨酒杯。    潦倒 新に停む 獨酒の杯

[詩語解]
[猿嘯] 猿の啼き声
[無辺] 果てのないこと。
[蕭蕭] 落葉の落ちる音。
[不盡長江] 流れて尽きないこと。
[滾滾] 水の盛んに湧き流れるさま。
[百年] 一生涯。
[繁霜鬢] びんの毛がすっかり白くなったこと。
[潦倒] 老いぶれる,落ちぶれる,何ことも投げやりになる。

[詩意]
風は急に天は高く猿の啼き声が哀しくひびく。渚は清く沙は白く鳥が輪をへがいて飛ぶ。
果てしない落ち葉はザワザワと音を立てて地に落ち,長江の水は湧き立ち,尽きぬ。
故郷を去ること萬里,秋を悲しみながら客中の客の放浪の旅人である,生涯病躯ながら本日九月九日,台にのぼっている。生活苦が続き鬢が白くなってきた。僅かな慰めでもあった濁り酒も口にしなくなった。
  



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