琴 台
 琴台に就いて懐古の情を述べたもの。

茂陵多病後。    茂陵 多病の後
尚愛卓文君。    尚を愛す卓文君
酒肆人間世。    酒肆 人間の世
琴台日暮雲。    琴台 日暮の雲
野花留宝靨。    野花 宝靨を留め
蔓草見羅裙。    蔓草 羅裙を見る
帰鳳求凰意。    帰鳳 求凰の意
寥寥不復聞。    寥寥として 復た聞かず

詩語解
[茂陵] 成都城外の浣花渓に近い所にある,漢の司馬相如の遺跡。相如が未だ栄達しない時,家は貧しく,卓王孫という富人の娘,文君の寡婦を琴歌に事寄せて通う,文君は夜逃げをして相如のもとに行く。遂に臨邛という處に到る。酒肆を始めて文君は壚で酒を売り,相如は傍で食器洗い。相如は後に出世して高官と成った。亦,多病の爲,官を辞し茂陵に居住した。
[茂陵] 漢の武帝の陵の名。相如が其処に居たので相如を指していう。
[卓文君] 相如の妻。
[酒肆] 酒屋。
[人間世] 相如等が在世中をいう,此処の句,過去をいう。
[琴台日暮雲] 此処の句,現在をいう,(仇兆鰲:詳註は過去としているが,従い難し,日本の先賢者に習い,現在とする。)
[留] 今でも昔のさまを残す。
[宝靨] えくぼが原義。然し,唐代の慣用に従い,「花鈿」(頬にあてる花かざし。)
羅裙] 薄い絹の袴。文君が愛用したものを指す。
帰鳳求凰] 相如が文君に求愛の琴歌に,【鳳兮凰兮帰故郷,遨遊四海求其凰】と有る。意は【鳳(雄)が四海に遊んで凰(雌)を求めているが,あても無いから故郷に帰ろう】という。詩は歌辞を切りとして用いる。
寥寥] さびしい。

[詩意
司馬相如は多病の後までも,まだ卓文君を愛していた。若い頃は俗界で,夫婦共稼ぎで酒肆まで開店したが,今や此の琴台に来て見ると,日暮の雲が,淋しく横たわっている。
野生の花を見ると,それは,ありし昔の卓文君のはなかざし,が残ってるかの様である。はびこる草の色は,文君の薄ものの袴の色が窺われる。然し,司馬相如が歌った鳳兮凰兮帰の心もちは絶えて再び聞くことは出来ない
。 
 


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